厳格な手順が納得をもたらす──マックス・ウェーバーが説く「正当性」の源泉
連携を図るのは、意思決定のルールと手順が非常に重要であるもう1つの理由でもあり、「正当性」という政治的概念に関連している【※1】。人は、決定が正当になされたと思えば、個人的にどう思っていようとその決定に拘束力があると認める。
※1 政治的正当性という概念の見事な概要はピーター『Political Legitimacy』を参照。
正当な意思決定はどのように生まれるのだろうか? 社会学者のマックス・ウェーバーは正当性の3つの源泉を特定している。それは、「カリスマ性」「伝統」そして「手順」だ。カリスマ性のあるリーダーは正当性を認められるかもしれない。人々はカリスマ的なリーダーの下した決定をリーダーの個性だけをたよりに進んで遂行するだろう(「あなたを喜ばせるために、それをやります」)。カリスマ性のないリーダーや委員会でも、伝統のおかげで正当性を認められる場合がある(「私がそれをするのは……先祖の知恵を誰が拒めるというのだ」)。だが、ここ数世紀は、組織(公共と民間のどちらも)が、正当性の根拠を手順に置く傾向がある。ある決定に拘束力があると認められるのは、その決定が事前に全員が承知している手順に則り、決定の中身や決定に関与した人とは関係なくなされたことが明確な場合に限られる。
採用は組織のあらゆるレベルにおける重要な決定であり、とくにトップレベルの場合はそうだ。経営幹部の地位にあきらかにふさわしい候補者がいても組織は往々にして、厳格で標準的な採用プロセスをたどる。私たちのうちの1人は最高責任者を解雇したばかりの、ある非営利組織の役員になった。CFOのアランが後継者に適任なのは誰の目にもあきらかだった。アランはその組織で10年以上働いていて、取締役やスタッフからの信頼が厚かった。私たちは、それでも、なんとかもう2人の候補者を探しだして吟味した。アランにもほかの候補者と同じインタビューと評価プロセスを経験させた。そして最終的に私たちはアランを選んだ。この採用プロセスは時間の無駄だったのだろうか? 私たちは絶対に必要なプロセスだったと主張したい。正しい手順を踏んだことで、取締役会、スタッフ、組織のメンバーの誰もがその決定が正当なものだと確信できたからだ。アランはその後、いくつかの厄介な組織変更を見事にやってのけた。それは、彼がその仕事に適任であることを誰も疑わなかったからだ。
前述したフィットネスバイクのメーカーであるペロトンと比較してみよう【※2】。ペロトンの場合、CEOのジョン・フォーリーが株主の信頼を失った採用に関する決定の1つは、フォーリーが自分の妻をペロトン・ブランドのアパレル部門の責任者にするというものだった。この決定は、正規の手順に則ってもいなければ、関係者の意見や性格と無関係でもなかった。そのために正当性を認められなかったのだ。
チームがルールに基づいたプロセスにしたがって決定をするときは、たとえ個人的には懐疑的であってもその決定に拘束力があると認めるのは、チームメンバーだけではない。意思決定プロセスの外にいる人たちにも同じことが言える。
※2 Blackwells Capital, “Peloton: A Call for Action,” 34.
状況別「最適な決定プロセス」の設計
それでは、ほかのものよりもすぐれている意思決定の手順はあるのだろうか? まず、最も重要なのは、明確な意思決定プロセスを確立することだ。どんなプロセスでも、たいていはないよりましだ。プロセスがないと、チームが入手可能な情報を集めて共有し、さまざまな選択肢(それほど目立ってはいないがより創造的なもの)を検討したあと、明確な決定を下し規律をもってそれを実行する可能性は低い。
コンセンサス、多数決、独裁型の決定のどれがあなたのチームに合っているかは組織全体や場合によっては国の文化をはじめとする、多くの要因にかかっている。私たちは多数のグローバル企業と仕事をしてきたが、そうした企業が苦労しているのは、チームが世界中の人々で構成されているときに起こる、意思決定の規範の衝突だ。
だが、たしかなことが1つある。それは、チームはさまざまなタイプの意思決定に直面するということだ。意思決定を分類する方法はたくさんある。私たちのトレーニング・シミュレーションでは先に述べた3つの基本的な課題を中心に意思決定を設計している。
- いますぐ日常的な意思決定をすることで、もう1日生き延びる
- 長期的な目標を設定し、それを達成するための規範と手順を確立して目標に向かって進む
- 予期せぬ危機やチャンスに対処する
こうした異なる状況においては、別の選択プロセスが多少は効果的かもしれない。たとえば、日常的な意思決定をするときは、当然ながら使えるデータをある程度持っていなければならない。マーケティングチームは、どの業界セミナーに参加すべきか定期的に判断を迫られるかもしれない。分業においては誰かがある分野に関して、チームのほかのメンバーよりもより多くの専門知識を身につけることになるだろう。こうした「セミナーのスペシャリスト」は、他者からのインプットを求めているとはいえ、自己の裁量で判断するのに最適なポジションにいる。
一方、それに対し、合意がないときに連携するにはチーム全員が正当性のあるプロセスに同意しなければならない。チームの規約を制定したり改訂したりする際に将来の意思決定を正当性のあるものと確実に認めさせるには、コンセンサスが唯一の方法となる。
最後に予期せぬ危機に遭遇した場合、結果や確率はわからないし知りようもない──危機が予測できないのは、まさにそのためだ。全員が連携して前進できるような結論に最も早く到達するのは多数決かもしれない。
議論を「コンテンツの罠」から救い出す、プロセス保護者の設置
この時点で、あなたは「コンテンツの罠」について忘れてしまっているかもしれない。そうに決まっている。それが、罠が罠たるゆえんだ。チームメンバーはチームにおいて、さまざまな公式・非公式の役割を果たすことができる。独裁的な決定者、共同決定者、熱心な支持者、アジェンダ設定者……。見落とされがちな役割がプロセス保護者だ。プロセス保護者はチーム全体と、チームの個人的・集団的行動を観察して、チームがみずからに課したコミットメントから逸脱したときには待ったを掛ける。そして、否応なしに落ちてしまうコンテンツの罠から引き戻すのだ。プロセス保護者の役割は、いくつかのサブロールに分けることができる。どれも同じ人物が果たす必要はないし、チームのリーダーが果たす必要もないものばかりだ。そうしたサブロールには会議の予定どおりの進行を支えるタイムキーパーや議論の流れを管理するモデレーターがある。ラウンドロビンのような慣行的な手法を取り入れているモデレーターもいる。
プロセス保護者は私たちのリーダーシップチームが議論を構成する際に力を発揮することがある。各ミーティングが始まる前に私たちはそれぞれの議題項目を目的ごとに分類している。それには、ある問題を議論したうえで、ミーティング中に結論に達しなくてもいいのか、それともミーティング中に最終的な決定をしなければならないのかをチームに伝える意図がある。この規律を行使すれば、ミーティングの目的を達成しやすくなる。それによって、伝えるべき内容がだらだらとした議論のなかでどこかに消えてしまうこともなく、「伝えるべき」もしくは「議論すべき」項目に対して、十分な議論がされないまま早まった決定が下される心配もなくなる。
率直に言おう。プロセス保護者というのは報われない役割だ。誰もがコンテンツの罠に浸って心地よく感じているときに、プロセス保護者は人々をそのコンフォートゾーンから容赦なく追い出すからだ。さらに目立ちたがり屋には発言を控え、引っ込み思案には積極的に参加するよう、丁重に依頼する。なかにはこの役割をそつなくこなせる人もいるかもしれないが、たとえうまくこなしてもパーティーを白けさせている嫌なやつ扱いされて、がっかりすることがある。プロセス保護者がより効果を発揮できるようにする、3つのテクニックがある。
(1)プロセス保護者を正式に指名する
仕事としてプロセス保護者の役割を果たすときは、たとえ介入したとしても、本人も同僚も個人攻撃とは捉えない。
(2)感謝の気持ちを表明する
こうした役割は気苦労が多い。チームのリーダーだけでなく、各メンバーもプロセス保護者という重責を担う人を支援する責任を負う必要がある。
(3)役割を交代する
先にも述べたが、この役割をより自然に担える人もいる。だが、この役割とそれを果たす人に感謝することを学ぶには、実際にその立場を経験してみるのが一番だ。
プロセス保護者は感謝されない役割になりがちなのと、既存の関係や人間関係の力学によって、どのチームメンバーにとってもプロセス保護者の役割を効果的に果たすのが難しくなる場合があるので、ときには外部のモデレーターにその役目を任せてみるのもいい。

