AI時代の幕開け:「生きるための労働(Labor)」からの解放
元Google日本法人社長・村上憲郎氏は、生成AI、そしてAIエージェントが普及する社会を「人類がいよいよ労働の義務から解き放たれるプロセス」と見ている[1]。
私は、村上憲郎氏の直接の薫陶を受け、様々な書籍や文献など推薦図書を紹介していただいてきた。とても贅沢な機会に恵まれていると感じている。その恩恵の一つ、『人間の条件』(ハンナ・アレント著)では、「労働(labor)」「仕事(work)」「活動(action)」の3つを定義している。
そして、村上憲郎氏の「労働の義務から解き放たれる」という表現は、ハンナ・アレント的な「労働(labor)」から自由になることを意味している。言い換えると、カール・マルクスが『資本論』で奴隷制に例えて表現した「賃金奴隷」からの解放でもある(村上さんは決して“奴隷”とは表現しないが)。
サラリーマンが現代の「奴隷」であるかどうかについては、異論も多い。これについては別の機会に論じるとして、ハンナ・アレントが挙げた3つをGoogle Geminiの力を借りて整理したので確認しておきたい。
- 労働(Labor):生物の肉体的なプロセスに対応する生命維持活動。終わりなき反復。生きていくための消費財(食料など)の生産が目的であり、生産されたものは消費されるため世の中に何も残らない。自然の必然性(飢えや生存の欲求)に支配されている状態。
- 仕事(Work):人間の存在が持つ非自然性(不自然さ)に対応する人工物の製造。明確な始まりと終わりがあり、道具、建築物、芸術など「恒久的な世界」の構築が目的。
- 活動(Action):物や物質を介さず、人間が他の人間に対して直接行う営み。予測不能性と不可逆性を持ち、言論と行為を通じて自らの「唯一無二のアイデンティティ」を他者に示す。自由の実現であり、歴史や政治を生み出す最も人間らしい高貴な領域。
「労働(labor)」の特徴は「終わりなき反復」であり、パターン化された単純作業。まさにAIで代替可能な仕事である。「生きるために働く」ことを目的にし、かつ、それを義務とする。だが、AIが単純入力作業やマニュアル通りの反復作業などの低付加価値業務を肩代わりし、人間が「仕事(work)」「活動(action)」といった高付加価値業務に集中できるようになることで、我々は「労働」から解放される。それがAI時代だ。
[1] 村上憲郎「「生きるために働く時代は終わる」 元グーグル日本法人社長が語る、生成AIがもたらす資本主義の終焉と経営の大転換」(JBpress Innovation Review)
