AIを相棒に現場へ飛び出す──「仮説検証」と「スキル・ナレッジ」の最新潮流
「自走の地図」の第二の領域は「プロセス」である。ここでは、新規事業開発の実務における「仮説検証」と「スキル・ナレッジ」のあり方が、ここ数年の生成AIの急速な普及によって劇的に変化している状況が語られた。
かつては、論点の整理、インタビューの設計、データのスクリーニング、そして仮説の構造化といった一連のプロセスに数ヵ月の時間を要していた。しかし現在では、これらの「量と速度」が求められる作業の大部分をAIが担うことができるようになっている。
「私は元々、現場に入り込んでポストイットを貼りながら泥臭く分析するプロセス自体に価値があると考えていた“精神論者”でした。しかし、AIの登場によってその認識はガラッと変わりました。これまで4〜5ヵ月かかっていた仮説構築のプロセスが3ヵ月以内に短縮され、メンバーの『現場に行く時間』が圧倒的に確保できるようになったのです」(大長氏)
また、積まれるべき「ナレッジ」の定義も進化している。結果としての成否だけでなく、「どんな仮説を立て、前提をどう更新したのか」という思考のプロセスを構造化して残すことこそが、組織の重要な資産となる。最新のツールを活用してプロジェクトのコンテキストをアーカイブし、誰でも参照・呼び出しができる状態を作ることで、新規事業の再現性を高める土壌が整うのである。
「条件付きGo」でゾンビ化を防ぐ意思決定、ステージに応じた柔軟な体制転換
プロセスを自走させる上で、成否を分ける極めて重要な変数が「意思決定」の構造である。多くの企業において、新規事業が結論を先送りされ、ダラダラと継続してしまう「ゾンビ化」が問題となっている。この課題に対し、大長氏は意思決定の本質を「条件付きGO」の設定にあると定義する。
「『もうちょっと検証してみよう』という曖昧な言葉で先送りするのではなく、『何を確かめればGOなのか』『何が達成できなければNO(撤退)なのか』という条件を事前に合意しておく対話が不可欠です。NOGOは失敗ではなく、そこから『学びを回収して次へ進む』ための前向きな決断なのです」(大長氏)
bridgeの調査データによると、成功企業の79.0%が「事前合意したGo/No-Go基準でその場で判断し、結論の先送りを起こさない」仕組みを整備している。これが出口を明確にコントロールする鍵となる。
そして、事業の段階が進むにつれて必要となるのが「ステージと体制」の動的な変化である。新規事業は、アイデア創出の序盤では顧客理解の深さを見て、中盤では仮説の再現性を見て、終盤では収益やコストの見通しを見るというように、ステージによって評価の観点も必要なリソースも全く異なる。
体制を固定せず、ステージに合わせて外部の専門知見やリソースを「オンデマンドでハイヤリング」してつなぐ支援機能(ハブ)の有無は、調査において最も大きな差分として表れた。
成功企業の79.0%がこの「外部知見の組織的ハブ」を保有している。社内の事務局は単なる管理・手続きの「事務局」から、経営の意図を現場に翻訳し、必要なリソースを外から調達して検証を加速させる「アクセラレーター」へと役割を転換しなければならない。

