なぜ新規事業は「続かない」のか。組織に潜む「適応課題」の正体
「自社の新規事業開発は成功していると思いますか」という問いに対して、実に約7割の担当者が「成果を実感できていない」と回答している。bridgeが実施した調査結果をもとに、大長氏はセッションの冒頭で厳しい現実を突きつけた。
さらに、成果を実感していると答えた3割の企業であっても、「次の事業の柱が生まれているか」という問いにまで踏み込むと、全体のわずか9%にまで絞り込まれるという。新規事業が「千三つ」の世界であることは確かだが、多くの企業で再現性を持って事業を生み出せていないのが現状である。
では、なぜ多くの組織で新規事業は停滞し、一過性の取り組みで終わってしまうのだろうか。大長氏は、その元凶を個人の能力や技術的な問題ではなく、組織の構造、すなわち「氷山の下側にある適応課題」にあると、ハーバード大学ケネディ・スクールのロナルド・ハイフェッツ氏らが提唱したリーダーシップ論[1]を引用し、指摘した。
「やり方やスキル、知識の欠如などといった『技術的問題』であれば、正しい方法論を見つけることで比較的短期間に改善できます。しかし、新規事業を阻む本当の要因は、組織の中で長年培われてきた前提、慣行、習慣、価値観といった領域の『適応課題』にあります。これらを組織全体で捉え直さなければ、どれだけ優れた仕組みを導入しても、新規事業が自走することはありません」(大長氏)
既存事業の行動原則から離れられない状態こそが、新規事業が停滞する組織の第一の兆候である。確実性を追求し、計画通りに動いて達成を成果とする「計画的思考」の既存事業に対し、新規事業では不確実性を前提に、仮説で動き、学習を成果とする「探索的思考」が求められる。
この二つの思考様式はどちらが良い悪いではなく、フェーズによって切り替えるべきものだが、多くの企業では既存の「計画的思考」のまま新規事業を評価しようとするため、現場と経営、既存事業と新規事業の間に「わかりあえない問題」という深い溝が生まれてしまうのである。
2017年に株式会社bridgeを創業。業種・規模の異なる300を超える事業開発プロジェクトに関わる中で、アイデアや戦略以前に、組織の関係性、意思決定の構造、対話の質が、新しい価値創造の持続性を左右することを数多くの失敗から学ぶ。現在は、チームビルディング、プロセスデザイン、ファシリテーション、コーチングの視点を統合し、個別プロジェクトの成功にとどまらず、組織が継続的に新しい価値を生み出せる状態を設計・伴走している。 初となる著書『自走する新規事業のつくりかた 手持ちのリソースで成果を出し続ける組織のしくみ』(翔泳社)を2026年7月13日に発売。
[1]ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティン・リンスキー『最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意思とスキル』(英治出版、2017年)
経営層の「本気の伴走」、フェアウェイを示す「方針・目標」の策定
この「わかりあえない問題」を解消し、組織を具体的な対話へと導くために、大長氏が提示するのが「自走の地図」である。
地図を構成する第一の領域が「リーダーシップ」であり、ここには「コミットメント」と「方針と目標」という二つの重要なアジェンダが含まれている。
bridgeの実態調査によれば、新規事業の成功企業と非成功企業の間で最も顕著な差分の一つが「経営層の伴走」であった。成功企業の88.1%が「経営層自らが新規事業活動に参加している」と回答したのに対し、非成功企業では57.9%に留まっている。
「経営の本気度は、言葉ではなく『行動・資源・時間軸』という具体的な引き受け方に表れます。経営者が単なる『評価者』のポジションに留まり、本業の片手間の10%の時間でやれと言うようでは、現場に覚悟は伝わりません。要所要所で責任を引き受ける場に現れ、人・モノ・金を動かす意思を示すこと。新規事業の本当のオーナーは経営者自身なのです」(大長氏)
また、経営層は現場が迷わないレベルで注力領域と「取り組まない領域(OB)」を明示する役割を担う。
成功企業の81.1%が戦略領域を定義しているのに対し、非成功企業では36.8%に過ぎない。ただ「既存以外で何か考えろ」と丸投げするのではなく、自社が取り組む必然性や強みとの噛み合いを検証し、戦うべき「フェアウェイ」を示すことが、ボトムアップのアイデア募集を成功させる前提条件となる。

