ディープテックを育む「新しいエコシステム」の設計図
ディープテックを継続的に生み育てるには、単発の成功事例ではなくエコシステムとしての仕組み作りが重要です。エコシステムとは、大学・研究機関、スタートアップ、投資家(VC)、事業会社、政府支援機関など多様な主体が互いに連携し、人的・資金的・知的資源を循環させる環境を指します。既に米国のボストン(MITを中心としたバイオクラスターなど)や、中国の深圳(ハードウェア系スタートアップ集積)など各地で独自のエコシステムが存在しますが、日本も自国にあったモデルを確立する必要があります。
新しいエコシステムの要諦の一つは、「研究開発段階から事業化段階へのシームレスな橋渡し」です。従来、この橋渡し部分で多くの技術シーズが失われてきました。そこで、多くの国・地域で設立されているのがTTO(Technology Transfer Office)やインキュベーションプログラムです。たとえばドイツのフラウンホーファー研究機構やフランスの国立科学研究センター(CNRS)では、研究者が起業に踏み出すためのトレーニング提供や、知財契約の簡素化、外部資本とのマッチング支援などを専門に行う部署を設けています。これにより、研究成果のスムーズなスピンオフ(事業化)を促進し、若い科学者が安心して起業できる環境を整えているのです。
日本でも大学の産学連携本部や技術移転機関(TLO)が徐々に充実してきていますが、まだ大学ごとに能力差があり必ずしも十分とは言えません。理想的には、各大学に「ディープテック推進室」のような専門部署を置き、研究者と事業人材、投資家を結ぶハブ機能を強化することが望まれます。
もう一つの要諦は、「マルチプレーヤー連携」です。ディープテックのエコシステムには、多様なプレーヤーが各々の強みを持ち寄って参画します。大学は知的資産と人材を、スタートアップは起業家精神とスピードを提供します。VCはリスクマネーを供給し、事業会社は市場アクセスやスケールアップの支援を担います。政府・自治体は制度整備や補助金で後押しします。このように役割分担しながらも一つのコミュニティとして連帯することで、不確実性の高いディープテック事業でも成功確率を高めることができます。
具体例として、某国立大学を中心に地元自治体と企業、金融機関が協議会を作り、ディープテック・スタートアップを包括支援する「イノベーションエコシステム拠点」を構築したケースがあります。この拠点では、大学発ベンチャーに対し研究員OBのシード投資ファンド、地元企業からの試作発注、市役所による規制サンドボックス提供など、ワンストップでの支援が提供されます。結果として、起業家は研究に専念しつつも事業展開のリソースを外部から迅速に得ることができ、事業化までの時間を大幅に短縮しました。日本各地でこのようなローカル・エコシステムの試みが始まっており、全国を俯瞰すればネットワーク型のエコシステムとして互いに補完・協調し合う未来も考えられます。
海外の取り組みも参考になります。フランス政府は2019年に「DeepTechプラン」を策定し、毎年500社のディープテック系スタートアップ創出を目標に掲げました。実際には目標数に届かなかったものの、2021年には前年比26%増となる250社もの新興企業が生まれたと報告されています(Bpifrance)。その背景には教育・研究機関を中心としたエコシステム整備があり、Bpifrance(仏公的投資銀行)が主導する資金供給や、インキュベーターによるメンタリング体制の構築など、官民を挙げた仕組みづくりが成功を収めました。
シンガポールでは、Enterprise SingaporeとA*STARが、SIMTech内に製品化支援拠点「Innovation Factory」を設置し、中小企業の技術アイデアを市場投入可能な製品へ転換する支援を行っています。グローバル競争の中で日本が埋もれないためには、こうした他国の大胆なモデルも研究し、自国流にアレンジして採用していく柔軟さが必要でしょう。
