インフレ・地政学的分断の時代における管理会計の新たな役割
過去30年間のグローバリゼーション期の企業経営は、平和、自由貿易、融通可能な労働力、低金利が前提であった。しかし現在では、地政学リスクの高まり、供給網の分断、人手不足、世界的なインフレと金利の復活により、経営環境は劇的に変化している。
これまでは「最も安いところから調達し、在庫をなるべく持たず、最も合理的な場所で生産する」という効率化・最適化のみが追求されてきた。しかしこれからは、調達ルートの複線化や戦略在庫の保持といった「冗長性」と、「効率性」をバランスよく組み合わせることが重要となる。資本市場からも、耐久性(レジリエンシー)が評価される時代になりつつある。
このような不確実性の高い不連続な時代において、過去のデータや経験則に基づく従来型の管理会計だけでは未来を見通すことができない。管理会計は「過去の実績を説明・反省するためのツール」から、「経営者に質の高い問いを投げかけ、未来の意思決定を導く言語」へと進化しなければならないのである。
会計専門知を経営力へ──読者へのメッセージ
最後に徳成氏は、管理会計やファイナンスに携わる実務家・ミドルマネージャー層に向けて、期待を込めた力強いメッセージを提示した。
企業の未来を創るのは「過去を解説する数字」ではなく、未来に向けた「意思決定」である。FP&Aとして事業の最前線に入り込み、「なぜこの数字になっているのか」「次はどう変えるべきか」という問いを投げかけ続けることが、企業の変革につながる。
企業経営において、数字は「基礎」であるが、すべてではない。事業と数字の両方を理解し、現場に伴走しながら事業価値を高めていくFP&A人材の育成こそが、日本企業の強みを蘇らせ、企業価値を高める鍵となる。
事業の現場で、FP&Aとして鍛えられ、さまざまな経験を積んだ人材がやがてCFOとなり、アニマルスピリッツを持ったCEOを支える、あるいは自らCEOとなって日本企業を牽引していく。そうした経営人材が絶え間なく生まれるエコシステムを構築することこそが、日本経済の持続的な発展につながると信じている。
財務・経理や経営企画の枠にとどまらず、自らが「企業価値の設計者」として現場と経営をつなぐ架け橋となること。徳成氏の提言は、これからの時代を生き抜くすべてのビジネスパーソンにとって、自らの役割を再定義する大きな示唆を示している。
管理会計という専門知識を単なるバックオフィスの業務として完結させるのではなく、経営の最前線で企業価値を生み出す「戦略的武器」へと昇華させること。それこそが、変化の激しい不透明な世界市場の中で、日本企業が再び世界的な存在感を取り戻すための最も確実な道筋なのである。




