最後にモノになってこそ工学、研究開発で終わらせたくない
津嶋(株式会社インディージャパン 代表取締役/マネージングディレクター):
神野さんは、どういった経緯でロボット開発をされることになったのですか?
神野(国士舘大学 理工学部 理工学科 機械工学系 教授):
高校生のときから数学や物理が好きだったので、大学は慶應の理工学部に進みました。4年生のとき、ロボットではなかったのですが振動とか機械力学の研究室に入り、修士でも機械力学の研究をしました。
就職を考える時期、東芝に行った先輩に誘われて研究所を見学に行ったところ、メカトロやロボット、コンピューター周辺機器といった当時成長領域と考えられていた領域で、好きな機械のことが研究できるというので、「ぜひ入りたい」と思ったんです。そして希望通りメカトロや機械の研究所に入りまして、その時点では特にロボットをやりたいと思っていたわけではないのですが、当時は世間的にも産業用ロボットが伸びている時で、東芝も産業用ロボットを立ち上げたところだったんですね。それに続いてもう少し特殊な領域でのロボット開発を進めていくという部署に配属され、最初は原子力施設を遠隔で補修するためのロボットの開発などをやっていました。
津嶋:
研究所では、どのように研究テーマを決めるのですか?
神野:
研究所から事業部に提案することもありますし、事業部から依頼をもらって進めていくことも多いですね。
津嶋:
提案するときのポイントはなんでしょうか?
神野:
企業の研究所では、大学で行われている基礎研究や応用研究の成果を利用して、新しいコンセプトを提案するところからやります。フィージビリティ・スタディ(FS)と言って、世の中の状況や研究を踏まえて今後必要な技術を考え、「こんな研究をやりましょう」というテーマを出すんです。研究者としては、ここでいかに期待感や可能性を示して予算を獲得するかがポイントになります。また、研究はひとりではできないので、必要な技術を持っている人とチームを組むための根回しも必要ですね。
津嶋:
最初から商品化を目指して進めるのですか?
神野:
ほとんどのテーマは商品化までは決まっておらず、多くは途中でポシャります。商品化まで行くケースの方がまれなくらいですよ。
津嶋:
その場合、研究者としては商品化されなくても新しいことを研究できて楽しい、という感覚があるのでしょうか?
神野:
私の場合は「最後にモノになってこそ工学」と思っているので、研究開発だけで楽しいということはないですね。「なんとか最後まで持って行きたい」という気持ちでやっていました。自分の力ではどうにもならないということも多いですが。
津嶋:
商品化できるかどうかに関して、研究者として重要なのはどんなことでしょうか?
神野:
実現可能性の検証ですね。製品化に向けての課題を見極め、それがクリアできるかどうかを提示できないと、事業部も中途半端なものは受け取れませんから。また、この段階でいい加減に「できます」と言ってしまうと、後で生産側とのトラブルにもつながります。