“エクスペリエンスの時代”へと舵が切られたと確信できる「3つの変化」
最近ふとカフェに行って、スタッフがあなたに気づいてくれたときのことを思い出してみてほしい。温かくて、なんとなく地元に帰ってきたような感覚を覚えたのではないだろうか。行きつけの美容室に行って、美容師に「いつも通りでいいですか?」と聞かれたときはどうだろう。あるいは、特別な予定のために服を買いに行き、ショップ店員がマニュアル通りではない、自分なりの視点で熱心にアドバイスをくれたときはどうだろうか。Tシャツ1枚をただ買いに行った店で思いがけず素晴らしいサービスを経験すると、あなたはその店に親しみを覚えるようになり、また同じ店に買い物をしに行く可能性は驚くほどに高くなるのだ。
フォレスターの予測によると、2017年には3分の1以上の企業が顧客中心の経営に舵を切るようになるだろうとしている。企業が顧客に良いサービスを提供することが重要であること自体は新しい考え方ではないが、「経験の質」を考えることがかつてないほど重要になってきており、以下に述べるような象徴的な変化を例に出すとわかりやすいだろう。
1:ミレニアルズの消費傾向
人々のお金の使い方は劇的に変化した。特に「ジェネレーション・ミー」とも呼ばれるミレニアルズ(10代からスマホやインターネットを使いこなす20代を中心とした世代)は、ブランドにはこだわりがなく、自己実現の手段としてその商品がどのような気持ちにしてくれるのかを第一に考える。Eventbrite社(イベントのオンラインチケット販売サービスを提供)の最近の調査でも、ミレニアルズの78%は物理的なモノを所有するよりも、体験型の商品にお金を使いたいと考えていることがわかった。
2:マイホーム購入年齢が上昇する本当の理由
初めてマイホームを購入する人の平均年齢は欧米諸国において上昇し続けているが、これはインフレと世界的な金融危機だけが理由ではなく、「探せばいつでもよりよく住める場所が見つかるのに、なぜ家を買ってそこに一生住み続ける必要があるのだろう?」と考える人が増えているのだ。
3:「所有」から「サービスの利用」へ
自動車産業もこのような傾向に苦戦している。若い世代は、ピカピカの新車にお金を使うよりも、1時間や1分という単位で車を借りられるサービスを好むようになっている。新しい価値観は、所有ではなく、シンプル、利便性、即時性である。
パインとギルモアが1998年に予測したように、これらすべての変化が、 世界的にエクスペリエンス・エコノミーに向かっていることを裏付けている。従来通りの「所有」を求める顧客像は、「利用」を好む新しいタイプの顧客像に移り変わってきており、人々はいかなる場面においても“頭を悩ませる必要のないサービス”を求めているのだ。
この世界的な変化に乗じて、様々なスタートアップが知識やモノやサービスを、素晴らしい経験を通して提供しはじめている。彼らは、楽しく、妥協することなく利用できるという、人々の本当のニーズに基づいて強固なビジネスを築いているのだ。
このような状況においては、資産やインフラの所有の有無だけではなく、バリュー・プロポジション(提供価値)の見直しをいかに早く繰り返し行うことができるかということが重要だ。規模が小さくとも、ユーザーエクスペリエンスに注力している企業は、全ての産業に対して挑戦状を突きつけている。なぜなら、スタートアップが築いているユーザーエクスペリエンスの高い基準のもとで、既存のビジネスも評価をされるようになってきているからだ。