ビジネスパーソンの“正解を出す技術”がコモディティ化した時代に必要となる「美意識」とは
宇田川(埼玉大学 人文社会科学研究科 准教授):
はじめまして。僕は山口さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』 (光文社新書)を、アメリカの学会発表後の飛行機で読みました。疲れていたから途中で寝てしまうかと思ったのですが、眠くなるどころかどんどん目が冴えてきて……。あまりに共感して、山口さんを“血を分けた兄弟”なんじゃないかと思ったくらいです(笑)。
武井(ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 共同創業者):
僕も、すごく面白く読ませてもらいました。
山口(コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社シニアクライアントパートナー):
ありがとうございます。
宇田川:
“美意識”という言葉は、あまりビジネスの中で語られることがなかったと思いますが、あえてそれを前面に出されたのは、なぜでしょうか?
山口:
なぜ“美意識”という言葉が出てきたのか、自分でもよく分からないんです。ただ、そこにたどり着くいくつかの水脈みたいなものがあって、ひとつは株式会社ポーラ・オルビスホールディングスの会長である鈴木郷史さんとの出会いです。僕が以前に書いた本を気に入ってくださって、ちょくちょくお話をしていたんですが、彼はもう10年くらい前から「美意識がないビジネスマンはダメだ」と言っていました。鈴木さんは「“事件”を起こせるやつ」という言い方をしますが、単に優秀な人ではなく美意識のある人が必要だと。それで3〜4年前、ポーラで美意識を鍛えるワークショップをやってくれと頼まれました。何をしたら良いのか、最初は非常に困りました。でも、その時に色々調べてみて、なんとなくタネのようなものに出会ったというか、「確かにこれは大事かもしれない」と思うようになったんです。
もうひとつ、私の本業は組織開発や人材育成のコンサルタントで、欧米の取り組みをよくウォッチしているんです。すると、『ウォール・ストリート・ジャーナル』に、アメリカではMBAに行く人が減ってきていて、むしろRCA(Royal College of Art:英ロンドンの国立美術大学)のようなところに人を送り込む会社が増えてきている、という記事がありました。
その後も似たような話が次々に出てきたのですが、にわかにはよく分からず、すぐに日本で取り入れられる気もしませんでした。ただ、分からないということは、そこに何か新しい気づきがあるのが常です。「なんでそんなことをやっているんだろう?」と、RCAに電話したり、送り込む側の企業の人事に聞いたりしました。すると彼らは、「正解を出す技術は、もうみんな持っている。それでは戦えないと分かっているから」と言うんです。
色々な流れが、そこでひとつの像を結んだという、そんな感じですね。だから、最初に“美意識”という言葉で表現したのは、︎鈴木さんということになるのかな。