反脆弱性が重要な時代、500年後に「大企業」はあるか
山口(コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社シニアクライアントパートナー):
反脆弱的(アンチフラジャイル)な組織がどうしたらできるのかという時、僕がよく考えるのは、25世紀や26世紀に1万人とか10万人の規模の会社はあるんだろうか? ということです。武井さんがおっしゃっているような、多数決をとらず、みんなの同意でそれぞれの報酬が決まっていくような運営の仕方って、1万人の会社ではできないような気がするんですね。歴史的に見ても、ローマの百人部隊は100人単位のユニットを束ねるという形だし、霊長類の研究家はボス猿が管理できるコミュニティは大体70匹くらいだといいます。10万人の会社というのは19世紀にはなくて、20世紀が生み出した産物ですけれど、今後も残り続けるのか、経営学者としてはどう考えますか?
宇田川(埼玉大学 人文社会科学研究科 准教授):
400から500年後のことですよね。その場合、間違いなく会社は小さくなると思います。逆に、なぜ会社が大きくならなければいけなかったのかというと、絶対的な要因としては工場が大きいからですよね。ひとつの自動車工場で何千人、何万人も働いているような状態になると、それを管理する組織も巨大になるし、その工場で働く人たちを食べさせるために、営業もものすごい経費をかけてやらなければいけないですから。IT化で変わったかというと、アップルは確かに人が少ないですが、実質的にはホンハイのような別の巨大な会社が製造を担っています。でも、もっと時間が経てば、テクノロジーの進化で工場そのものも変わってくるでしょう。3Dプリンターのお化けみたいなものがでてきて、今とは全く変わってくると思います。
山口:
もっとオンデマンドで作るようになる、といったことですか。
宇田川:
そうです。テクノロジーの面での制約がなくなっていけば、モノを作るということの考え方は変わるでしょう。ただ、美意識との兼ね合いで考えるならば、そういう世界を良いと考えられるかどうかということが課題ですよね。そういう美意識が芽生えなければ、テクノロジーはそっちの方向に進んでいかないので。でも、おそらく300年ぐらい経ったらそうなってくるんじゃないでしょうか。もしかしたら、もっと早くに。
山口:
資本主義というのは構造的に、成長を求めるものですよね?
宇田川:
そうなんですが、今後は富の生み出され方も変わってくるんじゃないでしょうか。例えばInterBrand(インターブランド)が出しているグローバルブランドのランキング「Best Global Brands 2017 Rankings」を見てみると、この20年程でトップ企業が全く変わっています。昔はコカ・コーラなどの企業でしたが、数年前からアップルがトップです。時価総額のランキングも、上位は全部IT企業になっているんですよね。今はアップルも大きい企業ですけれど、今後は稼げるところが必ずしも人を必要としないというふうに変わってくるのだと思います。そうなると、会社はだんだん小さくなっていくでしょう。