マーケティングがイノベーションを市場へ届けるときに必ず起こる「属性の順位転換」とは?
荻野:
本日は、よろしくお願いします。さっそくですが、音部さんは市場創造におけるイノベーションとは何だとお考えですか。
音部:
まずイノベーションには、「モノ」と「意味」のイノベーションがあると思います。新しい機能を持ったモノを作ることが、モノ(機能・プロダクト)のイノベーション。これを価値化して消費者に受け入れてもらうのが、意味(ブランド)のイノベーションでありマーケティングによる市場創造です。
私はP&G時代に、アリエールという洗剤を担当しました。当時は「襟・袖汚れがよく落ちる、白く洗いあげる」が、よい洗濯という定義でした。そこへ、P&Gは除菌というモノと意味のイノベーションをもって市場を再創造したのです。
その後も「よい洗濯」は変わり続けています。途中、洗濯機が時短の方向へ進化し、「よい洗濯とは、汚れがきれいに落ちて、時間も早く終わる」という提案を消費者は受けいれました。すると洗濯機のすすぎの時間が短くなったので、洗剤も早くすすげるようにならなくてはいけません。よい洗濯の定義が変われば、よい洗剤の定義も変わっていくのです。
このように「よい〇〇」の定義の変化を繰り返すことで、市場が新たに作られているわけなんですね。新しい機能が市場に受け入れられるように製品属性の重要度に働きかけることを、私は「属性の順位転換」と呼んでいます。
荻野:
私が既存商品のマーケティングを行うとき、意味すなわちブランドのイノベーションと属性の順位転換はセットです。新商品の場合は、プロダクトとブランド、そして属性の順位転換が絶対に必要となりますね。
新しい機能を作っても、市場がそれに価値を感じて受け入れてくれない限りは意味がない。そこが、マーケティングとイノベーションが両輪で動かなくてはならないところです。
──もう少し、属性の順位転換についてご説明いただけますか。
音部:
洗濯洗剤の話を続けますと、まずプロダクトとして除菌をする機能があります。しかし「白く洗い上げる・汚れが良く落ちる」という属性が「よい洗濯」の上位であるうちは、「除菌」という属性は受け入れられません。そこでマーケティングによって「部屋干しをすると、嫌な臭いがありませんか?それって、菌が原因かもしれませんよ」と提案する。これが消費者に受け入れられると、「除菌」という属性の重要度があがるんです。これが、属性の順位転換。
荻野:
自動車も、大きな属性の順位転換が起きていますよね。
音部:
子供が描く自動車の絵が、凸型のセダンから四角、つまりミニバンの形に変化したという話があります。かつて自動車は、大人が中心の乗り物でした。それを「子供と一緒に楽しみませんか?」と、今まで必要とされていなかったことを問題提起したのです。これを聞いて消費者は「そういえば、ドライブ中の子供はいつもつまらなそうにしているな」や「移動も楽しく過ごしたい」と考えて、受け入れた。属性の順位転換が起きて「いい車」の定義が変わったのです。経験的には、シェア1位のブランドが変わるときには属性の順位が変わっているものです。