「江戸」の都市設計に学ぶ“AI後”のイノベーションとクリエーション──「密集」と「余白」が重要な理由

第1回ゲスト:東京都市大学 環境学部 特別教授 涌井 雅之(史郎)氏【前編】

 連載『デザインによる都市OSの変換』は、佐宗邦威氏(株式会社BIOTOPE)と小林乙哉氏(東京急行電鉄株式会社)の2名を鼎談ホストに、現在ターニングポイントを迎えている都市デザインのあり方について、横断的な視点を持つ各界のトップランナーを迎えて議論を深めていく企画である。今回はランドスケープアーキテクトの涌井雅之(史郎)先生をお招きして、江戸の街づくりから考える日本の都市の可能性や今後の都市のあるべき姿を議論した。内容を前後編に分けて紹介する。

[公開日]

[語り手] 涌井 雅之 小林 乙哉 佐宗 邦威 [取材・構成] フェリックス清香 [写] 長谷川 梓 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] コミュニティ 事業開発 企業戦略 バックキャスティング サーキュラー・エコノミー

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300年以上前に日本に既にあった“世界最先端の構造”を持つ都市とは?

小林乙哉氏(東京急行電鉄株式会社 課長補佐、以下敬称略):昨年の7月に東急電鉄が幹事を務めるクリエイティブ・シティ・コンソーシアムの会議の中で、涌井先生に登壇頂き多摩川流域の持つ可能性について議論をしました。それがきっかけとなり、将来の多摩川流域のビジョンを議論するため、涌井先生に座長になって頂き、流域の自治体、企業、大学が参加する勉強会をはじめました。その勉強会の中で議論して作り上げたビジョンが「TAMA X(タマ クロス)」として公開しています。本日はそのビジョンの背景にある先生のお考えをお聞きできればと思っています。

佐宗邦威氏(株式会社BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer、以下敬称略):先生は議論の際、この地域で今ある生態系を大事にする必要があるとおっしゃっていました。具体的にはどんなことをお考えなのでしょうか。また現在、特にポートランドやイースト・ロンドン等欧州で、サーキュラー・エコノミー(循環経済、EUが主導しヨーロッパで提唱されている資源が循環する経済政策)を重視した都市づくりが行わています。そんななかで日本はどうしていくべきなのか。その辺りをお伺いしたいです。

涌井史郎(雅之)氏(東京都市大学環境学部教授、以下敬称略):世界の都市づくりで人々が目指しているものは、サスティナビリティですよね。僕は半世紀前から地球の中で人類が永遠に生きていくことは難しいと主張してきました。地球のキャリング・キャパシティー(環境に人の手が加わっても、そこにある生態系が安定した状態で継続できる人間活動又は汚染物質の量の上限のこと)には限界があるんです。旧来の産業革命のように、成長を目指していけば世界がハッピーになるのだという「フォアキャスティング型」の発想ではなく、どれだけ未来の世代に使用可能な資源を引き継いでいくかという「バックキャスティング型」の仕掛けをしていく必要があります。

そういったバックキャスティング型で自分たちのライフスタイルやワークスタイルを変えていくという発想は、今までは経済に対してネガティブな行為だと受け止められがちでした。しかし現在ではサーキュラー・エコノミーとして新しい価値を見出されて、アクセンチュアのレポートなどでも大きな市場が新たに生まれつつもあるということが、報告されていますね。*1

*1. https://www.accenture.com/jp-ja/company-news-releases-20151117

そんな中でポートランドやイースト・ロンドン等の先進地に世界の注目が集まっていますが、「ちょっと忘れちゃいませんか」と言いたいことがあります。日本には世界最先端の構造を持つ都市が、300年以上前に既にあったんですよ。エコ・システムとエコロジーを合体させた、まさにサーキュラー・エコノミーを実現した「江戸」という都市があったんです。日本らしい都市開発を考える際、それをきちんと正しく評価していく必要があります。

佐宗:ぜひ具体的に詳しく教えてください。

涌井雅之涌井雅之(史郎)氏(造園家・ランドスケープアーキテクト・東京都市大学環境学部教授)
多摩田園都市、ハウステンボスのランドスケープ計画・デザインに参与する。日本造園学会賞、国土交通省大臣賞等を受賞。博覧会では、「山口21世紀未来博」のチーフプロデューサー、「愛・地球博」の会場演出総合プロデューサーも務める。
今という時代を「農業革命」「産業革命」に次ぐ人類第三の革命「環境革命」の時代と捉え、地球環境問題、とりわけ生物多様性を重視して人と自然の共生を目指した持続的未来に向けた方向性を探りつつ、多くの作品や計画に携わっている。

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