新規事業には「ビジョン」ではなく「ビジョニング」が必要である──リーダーとチームの対話による進化とは

第2回

 新規事業を創り出すイノベーティブな人財の行動原則とは。前回の記事では、企業がイノベーション創出型の組織を創っていくには人財一人ひとりの「変化への対応力」を鍛えることが重要であり、そうした力を備えた人財を「自律型人財」と定義しました。そして「自律型人財」には行動原則があり、それは「軸を創る(=Visioning)」、「変化に気づく(=Reflection)」、「試行錯誤する(=Action)」の3つであることをお伝えしました。第2回ではこれらの行動原則の一つ目、「軸を創る(=Visioning)」について具体的にお話ししたいと思います。

[公開日]

[著] 杉山 誠

[タグ] ビジョン イノベーション 新規事業 VRA

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個人のビジョンを語りにくい日本人は、本音を引き出す問いかけで「自分軸」を言語化する。

 「あなたのビジョンは何か」。こう問われたときに、あなたはどのように答えるでしょうか。

 私たちが提供する人財や組織の変革プログラムでは、必ず参加者一人ひとりが自らのビジョンを表現し、ディスカッションする時間をとります。すると「こんなことにチャレンジしたい」「この部分を変えていきたい」といった自分なりの想いをすぐに表現できる人もいる一方で、「イメージはあるが、具体的なものを描けない」「図示するだけで文章にできない」「2つ~3つのキーワードしか出せない」など、明確に言語化できずに葛藤している人も少なくありません。

 企業の新規事業開発部門のリーダーからは、「メンバーの中に明確なビジョンを持って行動している人財が少ない」というお悩みもよく聞きます。これは、自己のビジョンを意識せずとも過ごすことができ、ビジョンを持つという意識が非常に薄いのではないかと考えています。

 振り返ってみれば、学校教育は長年にわたり知識インプット型の体系であることに加え、企業はヒエラルキー型の組織で効率重視の経営。社員はプロセス改善を繰り返し、与えられた役割を果たすことを求められてきたため、企業においても個人が自分のビジョンを考える機会が非常に少なかったのです。

 では、ビジョンを創る力をどのように鍛えることができるのでしょうか。まずは個人がビジョンを創るケースを考えていきましょう。

 ビジョンの持ち方は人それぞれで決まった方法はありません。「こうしたい」と最初から明示できる人もいれば、アクションを繰り返すことで次第に形にしていくという人もいます。しかし実際は、なかなかその一歩が踏み出せない人がほとんどです。よくあるのは「ビジョンは壮大で崇高な世界観を表現しなければならない」という思い込みにとらわれ、何も出てこなくなってしまうケースです。

 この思い込みを取り払うために、ビジョン創りではまず「自分を知る」ことから始めていただいています。「私は仕事のどのような場面で喜んだり、楽しみを見出すのか」「どのような状況で力が湧いてきたり、やりがいを感じるのか」と自分に問いかけ、自らの価値基準を明確にしていきます。

 このときに気をつけたいのは「“本当は”~したい(Want)」という本音にフォーカスすることです。「自分を知る」ことは、期待役割からの義務感や責任感、つまり「自分の役割では~すべき(Should)」、「自分の立場では~でなければならない(Must)」ということを知ることではなく、個としての内発的な想いと向き合う必要があります。

 特に論理性や効率性が求められる仕事に就いている人は職場で自分の本音を出すことは少なく、本音を表現することに戸惑うこともあるかもしれません。この場合、自問自答する以外に他者の力を借りることも一案です。たとえば「これを実現したい(Want)」という自らの想いを言葉にして周囲に伝えます。その際に、説明する自分を観察し「ここは話しやすい」「ここで詰まってしまう」「説明しづらい感じがする」といったことに気づいていきます。伝えやすい内容であれば自信を持って掘り下げ、すっきりしない箇所があれば「自分の気持ちをごまかしていないか」と確認します。

 このように、自分に問いかけたり、他者の力を借りたりしながら本音を掘り下げ、自分の軸を言語化していくのが個人のビジョンを創るプロセスです。

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