本書はここ数年、期待として語られてきた「インバウンド」や「地方創生」、さらには東京オリンピックの決定からすっかり定着した「おもてなし」という言葉をとらえ直し、「創造的おもてなし」というコンセプトのもと、パターン・ランゲージの手法を用いた「28の心得」としてまとめた本です。
著者の一人である中川敬文氏は、株式会社UDSの代表取締役社長。同社はホテルや商業施設の企画、デザイン、運営までをおこない、最近では良品計画との協業で、「MUJIホテル」を中国北京、東京・銀座にオープンするなど、存在感を増している会社です。
本書の「はじめに」で中川氏はこう述べています。
本書では、日々変化する状況に柔軟に対応しながら「創造的おもてなし」を実践し、自分らしい働き方をつくってきたアクターたちの実体験をもとに、後述するパターン・ランゲージの形式でその心得を記述しています。本書の目的は、第一に、サービスの現場で働く方たちにとって、どのような心構え・やり方であれば目の前の多様なニーズを持つお客様に満足いただけるかを考える際のヒントとして役立つことです。
そのため、内容はあくまでサービス業や観光業に寄せたものになってはいますが、その一方で、そういったこととは直接関係の薄いビジネスマンの方たちにとっても、日々の業務のこととして読み替えて理解できるようになっています。サービス業・接客業ではないビジネスマンの方たちが、「サービスの現場で実践されている、これからの時代に合った創造的おもてなし」のやり方からヒントを得て、「創造的おもてなし」の心構えを持って日々の業務にあたっていただけるようになることが、本書のもう一つの目的です。
内容は、UDSと慶應義塾大学 井庭崇教授と井庭研究室との共同研究によるもの。井庭氏とUDSのコラボは前著『プロジェクト・デザイン・パターン』(翔泳社)に続く2冊め。井庭氏は「パターン・ランゲージ」という創造の技法を、この本の中でも詳しく解説しています。
本書のおもてなしデザインパターンは、「創造的おもてなし」の実践のパターン・ランゲージであり、自分たちがいる地域・分野との関わりをもちながら、お客様との心地よい関係性をつくるための経験則をまとめたものです。そのことからすると、驚きがあるかもしれませんが、パターン・ランゲージは、もともとは建築の分野で生まれた方法です。クリストファー・アレグザンダーという建築家が、良い町や建物に潜むパターンを言語化したのが最初です。彼が目指したのは、古き良き町や建物が持っている調和のとれた美しさを、新しくつくる町や建物においても実現することでした。どのような言葉で形容しても表現しきれない「良さ」、これをアレグザンダーは「名づけ得ぬ質」(quality without a name)と呼びました。この質を成り立たせるものとして、建物や街の物質的な要素ではなく、要素間の関係性に着目し、この繰り返される関係性を「パターン」として捉えたのです。
さらにパターン・ランゲージとマニュアルとの違いについて、井庭氏は次のように解説しています。
パターン・ランゲージは、いうならば、理念とマニュアル(行動指示、操作手順)の間の「中空」に位置する「言葉」です。理念に結びつきながら、具体的な行動の手順は示しません。指示された手順通りに実行すれば必ず成功するというようなものではなく、活動の「指針」が少し抽象的に示されています。それにより、どのように行動することで理念に則った良い「質」を体現していけるのかを、自分に合わせて考えることができるようになっています。
こうした「創造的おもてなし」の秘訣を踏まえて、地域観光やインバウンドに関する経験の深いグランドハイアット東京のコンシェルジュである阿部佳氏と、やまとごころの村山慶輔氏を加えたトークセッションも含まれています。
本書で紹介される「創造的おもてなし」は以下の28パターン。それぞれにUDS 原澤香織氏によるイラストと、「状況」「問題」「解決」といったパターン・ランゲージ形式による解説によってビジネスの現場でも実践的に活用できるようにまとめられ、さらにUDSのホテルや施設のマネージャの経験やエピソードによってイメージをつかむことが出来ます。
本書はUDSのメンバーの豊富な経験と、井庭崇研究室の共通する経験に基づくパターン・ランゲージの実践のノウハウが凝縮されており、接客・サービス業の人だけではなく、「顧客」に関わるすべてのビジネス・パーソンに役立つ内容となっています。
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おもてなしデザイン・パターン
インバウンド時代を生き抜くための「創造的おもてなし」の心得28
井庭崇、中川敬文
発売日:2019年2月28日
価格:2,160円(税込)
インバウンドビジネスや接客業に効く「おもてなしの極意」を「パターン・ランゲージ」の第一人者、慶応大学の井庭崇教授と株式会社UDSの中川敬文が解説。