リーダーシップとマネジメントの違い。ブランドを守ることも人事の役割
埼玉大学経済経営系大学院 准教授 宇田川元一氏(以下、敬称略):私はドラッカーの『産業人の未来』が好きなんです。今では『マネジメント』のほうが有名になってしまいましたが、思想的には前者のほうが大事だと思っていて。
カゴメ株式会社 有沢正人氏(以下、敬称略):僕もドラッカーは大好きです。彼は「Getting the right things done(正しい仕事を成し遂げる)」と「Doing the right things(正しいことを正しく行う)」の違いについて語っていますよね。「Getting the right things done」とは、効率を上げるために物事を正しく行なうオペレーションであり、それはマネジャーの役割であると。「Doing the right things」とは、正しいことが何かを見極め、それを実行していくことであり、リーダーに期待される役割だとしていますよね。これから社員一人ひとりがやるべきは「Do the right things」であり、その限りにおいて、絶対に間違いはないよ……ということは社員にも伝えています。
宇田川:ドラッカーの思想は、政治思想的には保守主義思想です。誤解されがちですが、保守主義は別に右翼的な思想ではなくて、むしろ改革の思想であり、ドラッカーの言葉を借りれば「現実から始めよ」ということなんですよね。
何のために我々は改革をするのか――これについてドラッカーは「守るべきものを守るために、変えるべきものを大胆に変える」という言い方をしています。有沢さんはこれまでにカゴメの改革に携わられてきたわけですが、その中で「カゴメという会社が守るべきもの」は、何だと捉えられていますか?
有沢:まず、カゴメで守るべきものは「カゴメというブランド」だと僕は思います。小さい会社ながら、ブランドの信用力は全産業の中でもかなり上位につけています。
宇田川:他業種からもかなり尊敬されていますね。
有沢:ブランドに売上がついていっていないと社長は文句を言っていますけどね(笑)。それはしょうがない、ケチャップを1日に5本も使う人はいませんから。
カゴメが有する最大の資産は、エンドユーザーのブランドイメージです。安心、安全、健康などのキーワードで、カゴメの商品を選んでいただける。消費財のメーカーであれば、そこが一番大事ですから。
人事としては、従業員のハッピーを最大化することと共に、エンドユーザーにブランドとしてメッセージを伝えることも考える必要がある。「それは人事に関係がない」と言った瞬間、会社は終わります。なぜなら、ブランドイメージを守るのは一人ひとりの社員であり、その社員に対する責任を持っているのは、人事と経営だからです。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 荒金泰史氏(以下、敬称略):ブランドイメージを守り、さらには向上させていくために、どういう人を採用して育て、どういう施策を行ない、どういう戦略で社会へ訴えていくかを考えること。これはまさに経営戦略のための人事戦略ですね。