退職ブログにある、組織と書き手側の双方が持つ正しさ
藤倉成太氏(Sansan株式会社 執行役員 CTO、以下敬称略):宇田川先生の本を読んで、どこか一部分にというよりも、この本が持つ全体的な意義のようなものに共感しました。僕も日頃から、組織で起きる多くの問題の根本にはこの本に書かれているような課題があるものだと感じていて。そのことを明確に定義付けてくれたということが、この本の大きな価値だと思います。
宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):ありがとうございます。
藤倉:僕らはソフトウェア・エンジニアリングの世界で生きていますが、この世界ですら、技術的なことで択一的に解決できる課題はほぼないんです。あったとしたら、それは新卒の子でも解決できるような問題で、多くは個々人の立場や組織的背景、価値観などによって意見はズレ、対立が起きます。一概に、どれが正しいとは言えないんです。
宇田川:先日、平田オリザさんと対談をしたときに「退職ブログ」のことが話題にのぼりました。会社を辞めたことをブログで報告する「退職ブログ」の書き手には、エンジニアの方が結構いらっしゃいますよね。読んでみると、「自分はこういう技術を持っていて、こういう能力があるのに、それを活かさない組織はおかしい」と怒っている人が結構いて。もちろん、そういう組織にも問題はあるのだけれど、その中で自分が活きるように取り組む余地があることにも、気づいてもらいたいと思うんです。
藤倉:そうですね。
宇田川:ソフトウェアの世界というのはロジックが明確に立ちやすいから、余計に対立が先鋭化しますよね。「こういう理屈で、こうやったら、こうなる」と説明できるから、「自分は正しい」という主張になりやすい。そのときにもう少し対話的な観点を持ってもらうと、自分の考えやスキルをもっと活かせるんじゃないかな、と思うのですが。
藤倉:はい。「退職ブログ」に書かれるような組織と人の間の問題でもそうですし、エンジニア同士でも、意見が一致しない相手が「なぜ、そういうふうに考えるのか」という背景の部分がお互いに理解できれば、落とし所は見つかるものだと思います。