御社の中計は“数字の積み上げ”で作成していませんか?
──今年は未曾有の環境変化に直面し、中期経営計画(以降、中計)を見直す企業も多く出てきそうです。多くの企業との接点があると思いますが、日本企業の中計策定プロセスについてどのようにお考えですか。
加藤 雅則氏(アクション・デザイン代表 エグゼクティブ・コーチ、組織開発コンサルタント、以下敬称略):3月に『両利きの組織をつくる――大企業病を打破する「攻めと守りの経営」』(英治出版 加藤雅則、 チャールズ・A・オライリー、ウリケ・シェーデ著)を出版して以来、経営企画担当の方から数多くのコンタクトがありました。2020年が中計の最終年度だという会社も多いですから、次の方向性を模索しているんでしょう。
そこでよく説明させていただくのが、「中計を“作業”にしちゃっていいんですか?」ということです。「既存事業でそれぞれの部署が毎年何パーセント伸びて、市場の伸びはこれくらいだから、うちのシェアはこれくらいになります」といった数字の積み上げをするだけの中計って意味があるのか、と議論させていただきます。もっと突っ込んで「そこに意志はありますか?」と問うと、皆さん困った顔をされます。
「どうなりたいのか、何のためにやるのか、そこを話しませんか?」と説明するのですが、ほとんどの人はそこで会話が止まります。「もう一度経営陣と話してきます」みたいなことになっちゃうんですね。
──来年度予算などは「売上は前年比103%増」といった暗黙の了解がある会社も多いですよね。
梅本 龍夫氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授/iGRAM代表取締役 物語ナビゲーター、以下敬称略):20年前、僕がサザビーリーグで経営企画室長をやっていたときも、103%くらいで計画を立てさせていましたね。というのも、小売業では既存店を前年より伸ばさないと新店を増やしても全体が伸びないし、ブランドとしてだめになってしまいます。だから既存店をいかに伸ばすかが重要だったのですが、105%は無理だし101%では誤差の範囲にしかならない。103%というのは国の経済運営におけるインフレターゲットにも通じる数値感覚であり、既存ビジネスが中期的に成長するためのターゲットとして一定の納得性がありました。
ただ、これは経済成長が続く中で安定した経営ができるという前提があった1980年代中盤までの話です。バブル崩壊後、この前提は崩れたのですが、1990年代はまだ経済が循環的に戻ってくるという期待もあり、過去の実績に数パーセント上乗せするというやり方が一般的でした。現在は、どうやって未来をつくっていくのか、混沌とした状況にありますよね。
加藤:今は今期末の決算の予想さえ出せない状況だから、過去の売上や今後の市場予測をもとに中計を作成しようとしていた人たちは一層困っているでしょうね。こんなときだからこそ、前年売上比103%みたいな既存の枠組みから抜け出す必要があります。