「企業文化」としてある、イノベーションを起こす仕組み
大塚寿昭氏(バリューアップパートナー株式会社代表取締役、以下敬称略):前編では、新規事業開発の際、最初のイマジネーションの段階では、自律的に自由に探究させると仰っていましたね。通常、1年ぐらい経つと上司は待ちきれず介入するという企業が多いように思いますが、ルールとして介入できないことが徹底されているのは素晴らしいですね。
昆政彦氏(スリーエム ジャパン株式会社 代表取締役社長、以下敬称略):すべてがうまくいくわけではないので、社長としてイマジネーションとは何かなど、何度も伝えていく必要を感じてはいます。
CFOと社長は、経営管理という点で同じ指標を共有しています。ただ、社長という立場では財務指標だけでなく、例えばエンジニアが生き生きと仕事をしているのかという非財務的、定性的な点にも目を配るようにしています。現場の声を聞き、様子を眺め、エンプロイ―サーベイなども活用しながら、社員のモチベーションを管理することは、社長として重要な仕事だと考えています。
大塚:短期の利益を確保しつつ長期的な企業価値向上を目指していると思いますが、イマジネーションの段階で何か時間などの基準は持っていますか。
昆:まず、イマジネーションを基礎研究、(ビジネスにおける)イノベーションを製品と位置づけてはいません。基礎研究でもイマジネーションと(ビジネスにおける)イノベーションのプロセスがあります。技術者が自分の興味関心を起点として、まずは自律的に取り組むのがイマジネーションという段階です。
大塚:何か具体的な事例があれば紹介していただけますか。
昆:最近の例では、「15%カルチャー」を利用したフェイスシールドの製造・寄贈ですね。スリーエム ジャパンにはマスクやアイガードはあっても顔全体を覆うフェイスシールドは製品としてなかった。そこで「コロナ禍の中で我々が何か社会に貢献できることがないか」というエンジニアの思いが、製造担当者、マーケターを巻き込み、すでにある材料と工程の中で製造することを決めて、短期間で完成させ、「3Mフェイスシールド」として厚労省に1万枚寄贈させていただきました。
大塚:3Mの企業文化が隅々まで根づいていると感じる事例ですね。
昆:イノベーションの起点となるイマジネーションにとっては、細かい人事規定や詳細な指示命令が阻害要因になります。マネジメントは自律的な動きを支援する役割がありますが、指示やルールでは自律性は発揮されないので企業文化が鍵となります。3Mの企業文化は5つ柱がありますが、そのうちの1つが「イノベーションを大胆に」というものを掲げています。