D2C企業やデリバリー企業に学ぶ、コロナ禍でのモダンCX
Xデータを活用したモダンCXの方法に加え、講演では具体的な店舗のあり方に対する提案も行われた。久崎氏がまず取り上げたのは体験に特化した店舗である、住宅展示場だ。住宅展示場に行き、住宅を即座に購入する人はまずいない。ベッドに横になったり、リビングに座ってみたりという体験を提供することで、将来的な住宅購入へとつなげていく。こういった住宅展示場のサービス手法は、他の業種やサービスでもヒントにできるものが多いと話す。いわば、ショールームとしての店舗活用だ。
次に久崎氏が紹介したのが、コロナ対応を非常にうまく行っているシンガポールのスタートアップ「Love, Bonito」の事例である。Love, Bonitoは、オンラインの洋服ブランドとして誕生したD2C企業で、店舗は体験を重視した設計になっている。インスタ映えを意識した店舗デザインに、スマホで撮影すると店内に花畑が出現したかのように見えるAR(拡張現実)コードを配布したり、幻想的なインフィニティミラーを設置したりして写真撮影を促進している。洋服のディスプレイが映り込んでもおしゃれに見えるように、配置を工夫する徹底ぶりである。これによって顧客がSNSに写真を投稿すればプロモーションにもつながる。
コロナ禍においても、Love, Bonitoは非常にうまく対応している。店舗に入店する際には、スマホのQRコードか個人情報カードでの入店記録を求めている。もともとオンライン発ブランドのリアル店舗として、顧客に求めていたチェックイン機能をさらに強化した形である。また店舗内のディスプレイにゆとりを持たせることで、コロナを意識することなく、自然とソーシャルディスタンスが保てるような工夫をしている。購入する際には店内で誰も触っていない新品が提供され、試着後の服は消毒をして、フロアに戻す前に1日置く。
コロナへの対応に関してはサプライチェーン全体の笑顔を同時に考えることが、顧客の笑顔にもつながる。食品デリバリー業界で米国No.1シェアを誇るDoorDash社は、デリバリーの方法を、ドアベルを鳴らしてドアの前に置いて去る非接触方式に変えた。また、コロナ感染が認められた契約ドライバーらに、金銭面も含めた支援をすると発表した。それによって、コロナに感染してしまったドライバーの負担を軽減するとともに、コロナ感染を隠して働くドライバーをなくす取り組みを発表。そのことで顧客に安心を提供でき、顧客の支持を集め、さらにシェアを伸ばしている。