経営基盤は「人とカルチャー」、そして「顧客の声」
古くは1994年、DTP (Desk Top Publishing)を生み出した Aldusを買収して出版関連のソフトウェアに進出したアドビだが、2009年にウェブ解析ツールのオムニチュアを買収したのを皮切りに、近年はデジタルマーケティング関連のM&Aが目立っている。
たとえば2018年にはeコマースプラットフォームのMagento Commerce、マーケティングオートメーションツールのMarketo、2020年にはマーケティングワークフローツールのWorkfrontを買収し、「Experience Cloud」の内容を強化している。
マクリディ氏は「オーガニックグロースとM&Aによる成長の両方が重要だ」と指摘しつつ、「私たちは常に、優れたテクノロジーと、当社の製品を補完できる優れた人材を探している」と語った。そして、買収にあたって同社が重視することを次のように説明する。
「私たちは、買収先企業のビジネスだけに関心があるわけではありません。人とカルチャーも非常に重要です。したがって、その会社の人を見て、彼らのカルチャーを理解できるようになるまで慎重に検討します。それは私たちの知的な資産になるのです」
CEOであるシャンタヌ・ナラヤン氏も過去のインタビュー[1]で、買収した企業のメンバーがアドビのイノベーションを後押ししていることを強調し、「(買収した企業において)被買収企業からもヒーローが出るようにならなくては、その買収は事業として成功し得ない」と言い切っている。
また、オーガニックグロースにせよM&Aにせよ、同社の方向性を決めるのは顧客の声である、という点も重要だ。
アドビは「データドリブンオペレーティングモデル(DDOM)」と呼ぶ独自の考え方を提唱し、同社のマーケティングツールを基盤としたダッシュボードを活用して自社のビジネスにも適用している。
顧客とのタッチポイントからデータを集め、統合、分析、予測、活用することでユーザー体験を向上させていくというこのモデルが実現可能なのは、同社がサブスクリプション型のビジネスを行っていることが大きい。
[1] 染原 睦美・著『「過去の成功」を捨てられない全ての企業へ アドビ首脳陣が語る「成功モデルの捨て方」』2016年4月8日(日経ビジネスオンライン)