WHYからはじめるビジネスデザイン「サービスビジョンの策定」
河井氏が紹介したのは、自然エネルギーによる発電事業を行う、大手エネルギー会社(A社)の事例である。停電を回避する必要があるため、A社では電力需供が逼迫しそうなときには、各小売電気事業者を通じて節電を呼びかけ、それに応じたユーザに金銭的なインセンティブを与えることで需給バランスを保つ、デマンドレスポンス(DR)事業を行っている。
しかし、今までのインセンティブは、エンドユーザに節電へのモチベーションを持ってもらいにくい状態だった。そこでA社では、金銭的なインセンティブをやめて店舗のクーポンなどに変え、外出を促すことで外出中の屋内の節電を測れないかというアイデアを持っていた。
小売電気事業者であるA社にとっては、自社顧客である店舗にクーポンの発行を依頼すれば、店舗へ付加価値を提供することになり、エンドユーザには外出による体験が提供できる。ただし、この取り組みにはさまざまなステークホルダが絡んでくることになり、巻き込み方が難しい。単純に店舗のメリット、ユーザのメリットを提示するのではなく、店舗やユーザと共創するサービスで目指す世界観を考え、どういうユーザ体験を提供すればそれが達成された世界になるのか、またA社としての企業ビジョン(ゴール)との一貫性がとれているかを、下図のように階層ごとに確認しながら進めていった。
検討の過程ではさまざまなアイデアが出てくるが、それを全て盛り込んでしまうとシャープなサービスではなくなってしまう。ユーザにとってはシンプルな体験の方が使いやすいことも多い。そこで、サービスビジョン・コンセプトの策定時にはサービスのコアバリューを必須項目、推奨項目、可能であれば入れたい項目、絶対に実行しないと誓う項目の四項目で整理し、キーワードとして言語化していった。
その結果、サービスビジョン・コンセプトにはプロジェクトに関わるパートナーが目指したい世界観や、ユーザが得られる体験など、サービスのコアバリューを表現したほか、視覚的にも伝わるようサービスロゴにもメッセージを込めている。