本質的な課題から価値を考える「パーパスドリブンなデザイン思考」
さきほどの議論を踏まえると、ビジネスデザインを考える上で最も重要なのは「本質的な課題」であるのではないか。この課題を捉えられていないと、きちんとしたビジネスデザインをすることはできない。「本質的な課題とは何か」に関して、河井氏はビジネスケースを例に挙げ説明した。
「子供がおもちゃを振り回しながら家の中を走り回っていた結果、子供部屋とリビングの壁に穴が開いてしまった。壁の修理を頼みたい」と希望を持つ人がいたとする。その場合、壁の修理に着目して、「弊社の高機能壁材なら、もう二度と壊れませんよ」と返答するのがソリューションドリブンのベンダー思考の企業である。
また「本来、子供が子供部屋で遊んでいれば、おもちゃを振り回して家の中を走り回ることもないはず」だと考え、「子供部屋を明るい雰囲気で楽しい部屋にしましょう」とアイデアドリブン、代理店思考で提案することもできる。
この二つが間違っているわけではないが、もっとよく話を聞いてみると、相談者は「夫婦共に仕事が忙しいため、子供は寂しくて構ってほしいのではないか」と思っていることがわかることもある。そういったときに、本質的な課題は“子供の寂しさ”だと定義して、いっそ壁を壊して子供部屋をなくし、家全体がつながるような空間がソリューションだと提案することもできる。これがパーパスドリブンのデザイン思考での提案である。ビジネスデザインでは、このパーパスドリブンのデザイン思考で考えることが重要だ。
DX支援で起こりうる、ベンダー思考と代理店思考の弊害
たとえば、近年売上減少傾向にあり、トップダウンでDXを推進することが決まったとする。担当者は悩んだ末に、マーケティングデータを活用しよう、そのために事業部がサイロ化しているので、データを統合すれば何かしら結果が出るのではないかと考えてコンサルティング会社に連絡したとする。
すると、“ソリューションドリブンなベンダー思考”をするコンサル会社は「データ統合であれば、このシステムを導入してデータ統合を進めていきましょう」と答えるだろう。一方、“アイデアドリブンな代理店思考”をするコンサルティング会社は「マーケティングで今できていないこと、たとえば最適なコンテンツを配信してLTVを高めていきましょう」と答えるかもしれない。
しかし、実際には経営層も根本的な課題をよくわからないままDX本部を立ち上げている。担当者もマーケティングで解決できるのか、データ統合をしただけで課題が解決できるのかは、わからないまま依頼している。この場合、表面上の「何をどのようにするのか」ではなく、「なぜそれをやるのか」を起点にしないと、失敗することが多い。「DXとしてスーパーアプリを開発するためにSaaS基盤を導入したい」と希望が持った場合も同じだ。なぜそのスーパーアプリを開発するのかと問われて、それにきちんと自分の言葉で発信できなければ、それは施策ドリブンのアプローチである可能性が大きく、結局は使われなかったり、浸透しなかったりする。