前編では、V字回復論とは異なる変革のあり方が求められるようになった経緯を整理し、宇田川准教授が考える多義性・複雑性・自発性という3つの重要な課題について紐解いた。後編では、先のワールドカップで世間を驚かせた日本サッカーの成長の過程にも触れつつ、会社が変わるとはどういうことか、そのために企業が、そしてその中の一人ひとりが何をすべきかが語られた。
新規事業を“経営変革の筋”から捉える。今あらためて問う、アンゾフのシナジー論
──前編の終わりに、組織が抱える問題の多義性、複雑性、自発性について考えることと、マイクロソフトの変革の話をされました。多くの既存の大企業だと、かなりの多義性、複雑性がありそうですね。
マイクロソフトの場合、そういう状況で「こういう事業機会がありそうだ」とか、「事業モデルの変革はこういう方向性かな」と多義性の削減をしていって、「我々はこれをやっていこう」という自発性を生み出していったのでしょう。今までの事業を捨てるというわけではなく、これまでの事業で構築されたコンピタンスをどのように生かして、次の方向性や事業を作っていくのかということを、考えていったのです。
アンゾフの提唱した「シナジー」という概念の重要性を、最近あらためて認識し直しました。アンゾフは「シナジー効果」というものを「範囲の経済性」に近い概念として描いています。
例えば、「リクナビをやっていたリクルートが、ゼクシィをやります」というようなことですね。その場合、一般の消費者とサービス提供者をマッチングするという従来のビジネスモデルのノウハウや人的な能力が使えますし、「リクルートがやっているなら、ゼクシィも使ってみるか」とブランド力が効果を発揮します。全く別の会社が始めるよりも投資額が少なくて済み、収益率が高くなるわけです。
そこを考えて事業を作らないと自社のアドバンテージはないというのが、アンゾフが語った「シナジー」の概念だと思うんです。つまり、新たに取り組んでいる事業が他の事業にとってどのような経営上の価値があるのかを考えることが、シナジーにつながるわけです。
この連載で以前対談したライオンの藤村さんは、「習慣づくり」という言葉で会社のパーパスが明確化されたことで、新規事業に取り組みやすくなったとおっしゃっていました[1]。NECの北瀬さんは、新規事業に対して「今この事業を外に売ったらいくらの値がつくか」という時価総額の評価観点を取り入れたり、新規事業に関わる人材の成長を可視化したりという形で、それをされていました[2]。トライアルホールディングスの亀田社長も、「社会正義」という理念に照らして、新しいアイデアを吟味していましたね[3]。
どれも、新規事業開発が経営にどんな価値をもたらすかが明確になっている点が、非常に重要なんです。
[1]『なぜライオンは「習慣づくり」というパーパスの明確化を行ったのか──新規事業と既存事業に与えた効果』
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