行政組織に「デザインの仕組み」をインストールするサービスデザインユニット
岩嵜:みなさんが所属しているサービスデザインユニットは、どういう組織なんですか。
鈴木:サービスデザインのアプローチを行政組織にインストールすることを目的とした組織です。当初、デジタル庁にはデザイナーが数名しか所属していなかったのですが、発足時のCDO(Chief Design Officer)だった浅沼尚(現デジタル庁デジタル監)がデザイナーの採用を積極的に行い、一つの部署として組織化しました。
現在は、プロダクトデザイナー、ビジュアルデザイナー、ユーザーリサーチャー、アクセシビリティアナリストなど、20名ほどのメンバーが在籍しています。特徴としては、全盲の視覚障害当事者2名を含む、アクセシビリティアナリストが4名在籍していることです。デジタル庁は「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」をミッションに掲げていることもあり、アクセシビリティを非常に重視しています。実際に、アクセシビリティアナリストを4名迎えているのは、海外のデジタル分野の中央省庁のなかでも珍しいと思います。
岩嵜:なるほど。サービスデザインユニットは、デジタル庁の他の部門や他の行政組織と、どのように関わるんでしょうか。
鈴木:プロダクトデザイナーが個別のプロジェクトに伴走して支援をすることもありますが、リソースの都合上、すべてのプロジェクトにメンバーをアサインできるわけではありません。デザイナーをアサインできるのは、プロジェクト全体の1/5程度でしょうか。そのため、プロジェクト支援と同時に、デザイナーが伴走していなくてもデザインのクオリティを担保できる仕組みづくりに取り組んでいます。
岩嵜:「仕組みづくり」とは、具体的に何でしょう。
志水:一つが「クオリティサポート」です。クオリティサポートでは、デジタル行政サービスのUXやUIの品質向上、アクセシビリティやユーザビリティを担保するため、デザイナーがプロジェクトにスポットで参加してアドバイスを行います。例えば、私は裁判所の訴訟手続きに関するプロジェクトに参加し、画面遷移や主要画面のワイヤーフレームの提案、個別画面のレビューに携わっています。
クオリティサポートとしてデザイナーが関わることで、成果物のクオリティを判断できるようになります。従来、行政組織側に専門家がいなかったため、ユーザー体験の優先順位は高くありませんでした。しかし、デジタル庁では、プロジェクトにデザイナーが参加して、クオリティチェックや開発プロセスの整理などを行うことで、ユーザー体験を高める努力をしています。
岩嵜:素晴らしいですね。そのほかに、プロジェクトのクオリティを担保するための仕組みはありますか。
鈴木:サービスデザインアプローチを取り入れたデザインガイドラインを策定し、「デザインシステム」や「政府ウェブサイトの標準化・統一化」を公開しています[1]。先ほども述べた通り、庁内では数多くのプロジェクトが進められているため、すべてのプロジェクトにデザイナーが参加するわけにはいきません。そのため、デジタルサービスを「情報設計」「UIデザイン」「UIデザインパターン」「アクセシビリティ」などの観点から整理し、ベストプラクティスとして提供しています。こうした仕組みを通じて、行政官自らがクオリティコントロールを行えるようになる状態を目指しています。