「データが上手く活用できている」とはどんな状態か
「データドリブンな意思決定」はただの理念やお題目ではなく、生産性を向上させるためには欠かせないものになってくると西内啓氏は話す。実際、MITスローン経営大学院の研究[1]では、データドリブンに意思決定を行う会社の生産性が5%~6%向上するという結果も出ている。
もちろん、売上高をいきなり倍に伸ばすことは流石に難しいだろう。しかし、データを有効に活用するだけで「売上高100億円の事業を105億円に伸ばすヒントを見つけることはできる」と西内氏は語る。より適切な顧客セグメント、より効果的な顧客へのメッセージ、販売チャネルの最適化、あるいは商品ライナップの微調整など、データ活用によって可能となる施策を実践し、売上を伸ばした国内の事例は既にいくつも出てきている。
しかし、肝心のデータ分析の手法や進め方がわからず悩んでいるビジネスパーソンも多い。西内氏はまず、「データが上手く活用できている」状態とは何かを知ることが重要だと指摘する。
データが上手く活用できている組織では、データは明確な目的に基づいて収集され、活用しやすい状態で保存される。そして、分析から得られた新たな洞察が意思決定に反映され、施策をすぐに現場で実行し、その結果もきちんとデータとして収集されているという。そして、これをまた分析することでより良い意思決定が導かれる。このサイクルを継続的に回し続けるのがデータ活用の理想形だ。
つまり、データ活用ができていないということは、このサイクルがどこかで止まってしまっている可能性が高い。たとえば、データが収集されてはいるものの目的が不明確で、ただ闇雲にデータを蓄積しているだけにはなっていないだろうか。また、申請書提出や整理に時間がかかるなどの原因で、データがすぐに分析できる状況にないというケースも考えられる。さらには、データ分析チームによる他部門や現場の業務に対する理解が不足しており、出てくる分析結果が業務の役に立っていないということも多い。
他にも、考えられる要因はたくさんある。組織や事業を牽引するリーダーのリーダーシップが不足しており、分析結果が意思決定に影響を及ぼせていないかもしれない。あるいは、現場へ指示が降りているにもかかわらず、現場の人々が数字やデジタルテクノロジーに苦手意識を持っており、新しいやり方が根付かないということもあり得るだろう。
[1]「Strength in Numbers: How Does Data-Driven Decisionmaking Affect Firm Performance?」(2011.04.22/Erik Brynjolfsson、Lorin M. Hitt、Heekyung Hellen Kim)