ゾクセイマーケティングを可能にする「ゾクセイテーブル」の革新性
──本連載の第一回[1]で、WESTERのOne to Oneマーケティングにはギックスが提唱する「ゾクセイマーケティング」が大きな影響を与えていると伺いました。リアルタイムリコメンド基盤にもゾクセイマーケティングのアプローチが採用されているのでしょうか。
花谷:そうです。おっしゃる通り、ゾクセイマーケティングとは、ギックスが提唱する「行動を軸にした顧客理解によるマーケティング」です。性別、年代、居住地などの静的な情報ではなく、購買頻度や来店頻度といった行動をベースにした動的な情報をもとに顧客を分析し、その結果をマーケティングの施策立案などに反映する手法を指します。
リアルタイムリコメンド基盤には、ゾクセイマーケティングを可能にするため、「ゾクセイテーブル」が組み込まれています。ゾクセイテーブルはさまざまなタッチポイントから収集したデータをゾクセイごとに分類するための機能で、性別や年代のほかに「購入時間」「購入場所」「来店回数」などの行動に関わる項目が盛り込まれています。これらの項目があることで、詳細なセグメント分けが可能になり、より解像度高く顧客を理解できます。
例えば、性別や年代などで静的な情報だけでは、顧客の分析は「この商品をよく購入するのは20代女性」といった程度に留まります。しかし、「購入時間」や「購入場所」などの情報を加味して分析することで「この商品をよく購入するのは、出勤時間帯にコンビニを訪れ、帰宅時間帯にも同じ店舗に立ち寄る層」など、より行動ベースで顧客像を掘り下げることができます。
柴田:そもそも、JR西日本は、改札や駅ナカ店舗などお客様の動的な情報を収集するタッチポイントを数多く保有しています。近年、そのタッチポイントがWESTERサービスの展開などにより一気に増加しました。つまり、動的な情報を分析し、施策展開に活用できる環境は既に整っていたわけです。実際に、移動情報をマーケティング施策に活用する取り組みは、以前から散発的に実施していました。
しかし、それを日常的かつ継続的に実施し、PDCAを回すための仕組みは構築できていませんでした。それを可能にしたのが、リアルタイムリコメンド基盤であり、そのなかに組み込まれているゾクセイテーブルです。
花谷:さらに、ゾクセイテーブルの特徴として「継続的に分類のルールを更新できること」があります。性別や年代などと異なり、日々の行動など変化しやすい情報から顧客のニーズを読み取るには、セグメントを調整したり追加したりしながら、顧客への解像度を高めていかなければいけません。このように、多様なデータを収集して分析可能な形でゾクセイに落とし込み、さらにそのゾクセイ自体を調整しながら、顧客一人ひとりに適したマーケティング施策を立案できるのが、ゾクセイテーブルの画期的な点だと思います。
──さらに、WESTERポイントというインセンティブを付与して、顧客の行動変容を促すツールも保有していると。
花谷:おっしゃる通りです。顧客にWESTER経済圏のなかで、便利かつお得にサービスを利用してもらうためには、顧客のニーズを細かく把握してオファーやキャンペーンに反映し、さらにそのオファーを利用したくなるインセンティブを設けなくてはいけません。そのためには、顧客データの収集から分析、施策の展開、推進、検証までが一気通貫に繋がっている必要があります。その仕組みを支えるのが、本日お話ししたWESTERやリアルタイムリコメンド基盤、ゾクセイテーブルなどです。一つひとつがWESTER体験を実現するために必要なピースであり、それぞれが連動して施策が実践されているのが、JR西日本のデジタルとマーケティングの強みだと思っています。
──なるほどですね。お二人とも、本日はありがとうございました。
[1]前編(前々回)記事『JR西日本がコロナ禍の経営危機から脱却できた理由──リアルな場でのデータ活用に欠かせないゾクセイとは』/中編(前回記事)『JR西日本が取り組む「ゾクセイマーケティング」とは──多様なニーズを捉える、次世代型の顧客体験の秘訣』(Biz/Zine)