「守り」から「攻め」へ。似て非なる領域でのデジタル変革
──デジタルソリューション本部設立以前はIT部門がデジタル領域を担っていたのですね。しかし、顧客体験を向上させる新たな価値を創出する「デジタル」と、業務で利用するシステムにおける「デジタル」は、似て非なるものではないでしょうか。
柴田:確かに、私が所属するデジタルソリューション本部配下のシステムマネジメント部の前身であるIT部門は、社内のシステムや鉄道業務システムなどの開発・保守運用を主に担当していました。
また、似て非なるものとは、おっしゃる通りですね。攻めと守りの比喩でいえば、前者の新たな価値を創出する領域は「攻め」、後者の普段の業務を支える領域は「守り」ですね。鉄道領域のシステムは、お客様の安全に関わるものですから、とにかく堅実かつ確実に運用しなければいけません。一方で、顧客体験やマーケティングに関わるシステムには変化する多様なニーズに合わせてアジリティやバラエティを確保するため、アジャイルな開発や最新技術の活用などが求められます。
より具体的にいえば、かつてのJR西日本のシステムは、データセンターにオンプレミスでハードを用意して開発・保守運用を行うことが一般的でした。巨大なハードウェアを用意して、ソフトウェアを開発したり、改修したりといったレガシーな開発が中心だったわけです。
しかし、近年、デジタル化が進展し、顧客のニーズも多様化するなかで、そうした開発体制でデジタル領域のすべてを支えるのは不可能でしょう。そこで設置されたのが、私が所属するCCoE・モダナイズチームです。
花谷:CCoEはCloud Center of Excellenceの略称です。クラウド活用を積極化するための組織ですね。
柴田:クラウドを活用した「攻め」の開発体制を拡充したり、レガシーな社内システムを現代の技術を用いてモダナイズしたりするのがCCoE・モダナイズチームのミッションです。
具体的には、クラウド環境やガイドラインの整備、クラウド技術に関する教育といったクラウド利活用推進に加え、実際にクラウドを活用し、レガシーシステムのモダナイズプロジェクトを推進しています。最近では取り組みの成果も表れており、我々が提供するJR西日本のパブリッククラウド環境(GCP、Azure、AWS)上に複数のシステムが構築されています。先ほどお話したWESTERサービスに関わるシステムの多くも、このクラウド環境下に生み出されています。
──なるほど。CCoEモダナイズチームが「WESTER体験」の土台を支えていると。
柴田:そうですね。現在、JR西日本は非鉄道領域の強化に取り組んでいるわけですが、以前はそれぞれの事業が十分に連携されておらず、また顧客側からもそれぞれがJR西日本のサービスであるというイメージは薄かったと思います。
そこで、WESTERアプリをはじめとしたデジタルサービスで各事業を繋ぎ合わせ、一貫した顧客体験でJR西日本のブランドを確立するのが、WESTER体験を構築する狙いです。そして、それを実現するためには、従来型の開発体制や開発手法を部分的に刷新し、柔軟でアジリティの高いモダンなシステムの構築を推進するCCoE・モダナイズチームのような組織が必要でした。