大学をハブとして地域の産学官連携を生み出していく
地域におけるイノベーション創出と、産学官連携についても多くのテーブルで議論が行われた。
たとえば、ある大学では行政と連携し、地域の課題解決に向けたイノベーションエコシステムを構築しているという。この地域は研究機関が多く、行政と企業とのネットワークもすでに構築されているため、産学官連携の地盤が整っている。これまでは小規模な地域解決プロジェクトに企業が参画する取り組みが中心だったが、今後はより大規模なプロジェクトを構築していくという。
縦割りの行政体制において、市民向けと企業向けの窓口が分かれている中で、この大学は行政と企業を結びつけるハブとして機能している。さらに、行政が直接取り組むのが難しい分野でも、大学が中立的な立場を活かして課題解決に向けた取り組みを推進している。大学が行政や企業にはない「中立性」を発揮して、ハブとして機能している好例だ。
しかし、こうしたプロジェクトを全国的に推進するためには、大学内にイニシアティブを取るリーダーが不足している現実も指摘された。企業や行政からマネジメントスキルやイノベーションへの理解を持った人材が不可欠であり、ここでもセクター間の人材流動性が重要だとの意見があった。
学生に自由な活躍の場を与えることも、そうした文脈に含まれる。海外では、企業での活動によって卒業が遅れても評価される文化が存在する一方、日本では4年での卒業が優秀さの証とされている。しかし、大学は単なる研究施設ではなく、優秀な若い人材が集まるハブでもある。学生にもメリットがある形で、その人的資源を活用する仕組みが生まれれば、さらなるイノベーションが期待できることは間違いない。
さらに、産学連携の新たなアプローチのアイデアも浮上した。従来の特定のシーズに焦点を当てた産学連携は成功率が低く、一つのシーズに依存するため、アイデアの拡張や方向転換の余地が限られている。このため、テーマ単位で複数のシーズを扱い、大学と企業が幅広く議論を行うアプローチが提案された。大学の持つ多様な技術シーズを生かし、対話の中でアイデアを広げ、互いに連携を模索することが狙いである。
すでに行われている事例として、ある事業アイデアを中心に、複数の大学と企業が協力して実現を模索するプロジェクトの重要性が強調された。これは技術の実用化を目的とするのではなく、特定のゴールのもとに大学や企業がアイデアを持ち寄るスタイルである。