データ活用の第一歩「目線合わせとしてのデータ」
ReaktorはITテクノロジーのコンサルティングやデジタルプロダクトの開発を行っている国際企業だ。本社フィンランド以外に欧州各地や米国などにもオフィスを構えており、日本法人のReaktor Japanには、国籍だけでも11ヵ国以上と多様なメンバーが集まっている。そんな体制でReaktorは、顧客が本当に求めているデジタルプロダクトをオーダーメイドで提供するほか、アジャイルコーチとしての開発チームのコンサルティングや、デザイン思考の導入も行っている。
プロダクトを作る上では、北欧のデザインDNAを重視しているという。北欧のデザインのエッセンスはシンプルで機能的でありながら、触り心地が良いという点だ。デジタルとはいえど、プロダクトは日々手で触れるものなので、感覚や肌触りがとても重要だという。そうしたエッセンスを重視しながら、効果的なデータ活用をベースに、プロダクトを作っているという。
今回の講演では、両登壇者が日本国内外の事例を交えながら、デジタルプロダクト開発におけるデータ活用の具体的な方法を3つの重要なポイントに分けて解説した。
第1のポイントは「目線合わせとしてのデータ」だ。リサ氏はプロジェクトの成功には、同じ目標に向かうマネジメント層と現場が、同じデータにアクセスし、それらを同じ指標、同じ文脈で理解することが重要であると強調する。
Reaktorでは、定量データと定性データの両方をわかりやすい形で可視化することで、チーム内外で目標や進捗を共有できるよう工夫しているという。複数のレイヤーで協力する体制を構築するためには、データを通じた目線合わせが有効なのだ。
具体的な事例として、日本海事協会(ClassNK)とのプロジェクトが紹介された。日本海事協会は日本の商船の安全基準を管理・認証する非営利団体だ。Reaktorは同団体のデジタル化を支援し、データを用いて認識の共有から意思決定に至るプロセスをサポートしてきた。
Reaktorのプロダクト開発では、データを用いて、ステークホルダー間で現状の精緻な認識を共有した上で、課題を発見し、意思決定を行っていくという。特にこのプロジェクトでは「サイレントマジョリティーの可視化」に焦点を当てたと話す。
顧客の声を聞こうとすると、どうしても目立つ意見や大きな声の顧客に注目しがちだが、多くのユーザーは問い合わせや意見を表明せずに、いわば「淡々と」サービスを利用し続けている。こうした顧客層の行動を定量データから分析した結果、収益の大半に貢献している特定の顧客セグメントを特定でき、この知見をもとに、各種デザインや開発の優先順位が決まっていった。
リサ氏は「データはあくまで意思決定をサポートするものであり、最終判断は人間が行う」と述べ、データから得られるものは、知見や新たな可能性であり、それを踏まえて意思決定を行うには人間の判断力が不可欠であると強調した。