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経営戦略としての人的資本経営

ジョブ型ではなく「G型かL型か」で考える経営人材像──「事業家思考」と「投資家思考」を両立するには?

後編:早稲田大学大学院 佐藤克宏氏、一般社団法人日本CHRO協会/一般社団法人日本CFO協会 日置圭介氏

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ジョブ型ではなく「G型かL型か」で経営人材を捉える

──経営者には「事業家」と「投資家」の両面が必要という点はわかりました。しかし、そうした人材はどうすれば育成できるのでしょうか。

佐藤:私は早いうちにキャリアトラックを分けるべきではないかと思います。日立さんが展開している、若手優秀社員向けのエリートプログラム「Future50[1]」がわかりやすい例です。若手のうちから人材を選抜して、さまざまな部門をローテーションさせたり、外部への派遣を経験させたりすることでしか、次世代の経営人材は育成できません。

 従来、こうした育成手法は日本企業では忌避されてきました。「選抜されなかった人材がモチベーションを下げてしまう」というのがよく挙がる理由です。しかし、この手法を避けるあまりに「先輩の背中から学べ」的なOJTや、戦略と結びついていない名ばかりの研修を続けていても経営人材は育ちません。実際に、若手優秀層のなかには自費でビジネススクールに通う人たちが増えていますよね。だとすれば、彼らのエンゲージメントを向上させる意味でも、「将来の経営者」を育成するプログラムを設けるべきではないかと思います。

日置:たしかに、若いうちから経営に近い仕事をするのは、他に変え難い経験です。例えば、それを実践しているのが総合商社ですね。総合商社が投資会社としての側面を強めて長らく経ちますが、彼らの「投資」には純投資と事業投資があります。後者の事業投資では、若手人材でも投資先の経営に参画します。そこで、事業はもちろんファイナンスや組織運営を実践することで学べるわけです。

 他にも、リクルートでは有名な「Ring」という新規事業の提案制度があり、社員がオーナーシップを持って取り組み、Ringを通過した案件は事業開発へと進み、事業化、部門化を目指します。この過程で役員陣の思考法や視点などに触れることで経営の素養も磨かれていきます。また、パナソニックの自主責任経営や京セラのアメーバ経営もそうした意図があるのだと思います。

 なので、必ずしもすべての日本企業が人づくりにおざなりであったとは思いません。しかし、社会や市場環境は急速に変化していますし、社員の価値観も昭和の時代とは変わっています。意欲のある若手人材にどのような成長の場を提供すべきか。改めて多くの企業では自問するべきですし、その検討の末にエリートプログラムを設けたり、ビジネススクールと連携したりするのは正しい判断だと思います。

佐藤克宏
早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 佐藤克宏氏

──お二人とも、若手のうちから経営の経験を積ませるべきという点では一致していますね。

日置:先ほど佐藤先生からお話のあった日立の「Future50」はまさにそれですね。特に日立のように本気でグローバルで戦う企業で経営を担う人材となれば尚更です。

 むしろ、私は昨今盛んに取り沙汰されている“ジョブ型雇用”のほうが危ういと思っています。これそのものが日本だけで使われている特殊な呼び名ですし、概念的なものは海外にも当然ありますが、言ってしまえば古い話です。

佐藤:それは私も同感です。

日置:もちろん、“ジョブ型”が馴染む仕事はたくさんありますが、経営の仕事はそうではない。むやみやたらなローテーションでは本人の幹が作れないので意味がありませんが、健全な形でのローテーションを経なければ、いざ経営の任に就いたときに組織の全体を管掌できません。それこそ、事業だけに精通していてファイナンスは専門家任せの経営者になってしまいます。なので、経営人材の育成に関しては一定多様な経験をさせるローテーションが欠かせない要素だと思いますね。

佐藤:そのためにも、私は「将来の経営者」候補とそれ以外のキャリアトラックをわけるべきだと思うんです。経営共創基盤 IGPIグループ会長の冨山和彦さんが著者『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』で「G型/L型」を提言したことがありましたよね。企業をG型とL型と分けて、グローバルに活躍するG型企業と、ローカルを支えるL型企業に二分して考えるという提言です。

 私は、この分類が経営人材にも当てはまると思っているんです。つまり、経営人材として次世代の経営を担うためにローテーションを重ねるG型人材と、地域性などを重視して特定の地域や領域でキャリアを重ねるL型人材に二分すべきではないかと。それに加えて、ファイナンスやマーケティングなどの専門領域を極めるエキスパート型の人材の枠を設ければ、社員それぞれの価値観やキャリアプランを尊重した効果的な人材育成ができると思います。

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「事業家」と「投資家」の思考を両立させるためには

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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