「事業家」と「投資家」の思考を両立させるためには
──最後に、ビジネスパーソンが「事業家」と「投資家」の思考を身に付けるためのアドバイスはありますか。
佐藤:私としては、絶えずお金の流れを意識することに尽きるのかなと思っています。株主や銀行から資金を調達し、事業を運営して利益を出して、その利益などをキャッシュの源泉として内部留保や再投資や株主配当に分配する。この一連の流れをまずは意識することが重要です。そうすれば、そのお金の流れがファイナンスの用語ではどのように表現されるのか興味が湧いて、自ずと「投資家」的な視点で経営が見えるようになっていくでしょう。
そこまで到達すれば、あとは日本が得意な「カイゼン」の世界です。ファイナンスの視点に基づきながら、経営をより良い方向に磨き上げていけばいい。つまり、お金の流れを意識して、ファイナンスの素養を身に付け、その指標をもとにカイゼンを継続するという3つのステップを順序よく辿れば、誰でもあるべき経営の姿を追求できると思いますね。
──非常にシンプルですね。その3つのステップであれば、多くの人が実践できるような気がします。
佐藤:MBAを取得するよりもよっぽど簡単なことです。大学の教員として断言します(笑)。
──日置さんは何か読者にアドバイスはありますか。
日置:前編でもお話しましたが、事業責任者などの事業サイドの人材が、株主などの資本市場の人々と相対するのがよいのではないかと思います。「株主に対応するのは社長とCFOの仕事」という固定観念を排除して、レスポンシビリティを持って資本市場に向き合う。それが慣習として定着すれば、事業責任者やその先の企業経営者を目指す人材は自然とファイナンスを学ぶようになるでしょう。
一方で、企業側としても、将来有望な優秀層が経営人材に成長していくための環境を用意するべきだと思います。もし、その環境を自社だけで用意できないのであれば、他社と組むのも一つの方法です。
今回のテーマである「投資家と事業家の両面を持つ経営人材づくり」ではないですが、日立とソニーグループという変革を成し遂げてきた企業同士が新たに取り組み始めた相互副業の受け入れは、人材にも企業にもさらなる成長をもたらし得る企業間連携の好例です。
また、2023年に東洋紡と三菱商事との共同出資によって設立された「東洋紡エムシー」。こちらは一義的には産業競争力の強化を狙った事業投資の1ケースで、東洋紡の技術力と三菱商事の経営力やネットワークという双方の組織能力を掛け合わせた取り組みですが、大きな成果が期待できますし、結果的に両社の人材を育成する環境としても理想的だと思います。
昨今ではJTCと揶揄されることも多いですが、日本国としての貴重なアセットという側面も大いにありますので、大企業同士が連携しながら次世代を担う人材のために成長環境を多産するというのはおすすめですね。
佐藤:いずれにせよ、日本企業では「事業家」と「投資家」の思考を両立させている人材は極めて希少です。早いうちに取り組んでおいて決して損はないと思いますね。
一般社団法人日本CHRO協会/一般社団法人日本CFO協会シニア・エグゼクティブ日置圭介氏と、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の佐藤克宏氏が登壇!