現場発、経営とのギャップを埋めるプロセス
「現場と経営のギャップ」を埋めるには、新規事業に対する考え方やプロセスについて組織で合意し、それをマネジメントに反映することが不可欠です。
まず重要なのは、新規事業に求める要件を合意し、新規事業組織としての目標(KGI/KPI)を明確にすることです。新規事業創出の目的、目指す事業規模、時間軸、アプローチ手法といった要件をもとに、組織としての指針を活動へ落とし込み、一貫した取り組みにすることが求められます。つまり、現場と経営がコミュニケーションできる「前提」を整えることが大切なのです。
あなたが現場担当者であれば、経営側から「プロセスよりもおもしろい事業アイデアを持ってこい」と言われるかもしれません。しかし、「前提を揃えなければ、お互いが不幸になります」と伝え、この重要性を理解してもらうことが不可欠です。新規事業責任者としても、経営目線を持ちつつ、現実的な目標とコミットメントへの合意形成に、まずは努めましょう。
多くの企業で一貫した判断ができていない理由は、新規事業に対する共通認識がないことに起因します。経営陣の中でも意見が異なったり、人によって判断基準がぶれたりするからです。特に経営陣がそれぞれ個別の事業責任者や機能責任者である場合、新規事業に求める期待値も異なります。また、個人の成功体験に基づいて様々な指摘をしがちです。そのため、新規事業に対して一貫した判断を下せるよう、求める要件と判断基準、意思決定のあり方を明確に整理することが重要です。
現場主導で「前提」を整えるための3つのステップ
もう少しブレイクダウンして、現場で新規事業開発に携わる部長から担当者クラスの皆さんが、この「現場と経営のギャップ」に対し、「まず何から始めればよいか」を、実践的なステップにまとめてみましょう。
ステップ1:ミッションと目標(KGI/KPI)の明確化
まず、新規事業開発組織としてのミッションや目標(KGI/KPI)を明確にすることから始めます。その内容について経営と継続的に議論を重ね、目線を合わせることが第一歩です。
重要なのは、新規事業の提案をいきなり持っていくべきではない、ということです。まず経営側とコミュニケーションすることから始めなければなりません。会社の現状を踏まえ、「このくらいの時間軸で、この規模の新規事業を立ち上げる必要がある。使えるリソースはこのくらいだ」という前提条件を経営側から聞くだけでなく、担当者側からも積極的に提案していくことが大切です。そうして、新規事業組織としての目標(規模感や時間軸)を設定しましょう。
ステップ2:事前の枠組み設定
設定した目標をベースに新規事業の進捗を判断し、事前に合意したKGI/KPIに基づいて経営に意思決定を促すなど、新規事業に関する意思決定の枠組みをしっかりと作ることが重要です。
これは、現場の担当者というよりも、事業開発部門を任されている部長クラスの方に実践していただきたいことですが、全社の経営課題を踏まえた新規事業の位置づけに基づき目標(KGI/KPI)を明確にし、その実現のためのプロセス(フェーズ設計、判断基準・撤退基準、意思決定主体/会議体など)をしっかりと定義してください。
ステップ3:継続的なコミュニケーション
このプロセスを回すこと自体に大きな意味があります。現場と経営が「同じ土俵」でコミュニケーションを取れることが重要なのです。実際にうまくいっている会社では、お互いの共通認識が形成されているため、事前に合意した枠組みに基づき、経営側もリソースでしっかりと支えてくれます。新規事業が道半ばで不明瞭な理由で中止されてしまうようなこともなくなります。
一見、面倒で大変そうですが、長期的にはこれが現場と経営にとって最も健全な形なのです。人は体力的な辛さよりも、精神的な辛さの方が耐えられません。答えのない問いに延々と取り組むことには心理的な負担がともないます。心理的安全性が確保された状態で推進できる環境を整えることが何より重要なのです。
