三菱UFJ信託銀行発のスタートアップ、社内起業の原点
──はじめに、大江さんにTRUSTARTの事業概要についてお伺いします。
大江洋治郎氏(以下、大江):TRUSTARTは、不動産オーナーデータ「R.E.DATA(リデータ)」や、不動産調査サービス「R.E.REPO(リレポ)」などを提供しています。不動産関連情報のビッグデータの収集や提供が事業ドメインです。
TRUSTARTは、三菱UFJ信託銀行の社内スタートアップとして2020年に設立されました。元々私は三菱UFJ信託銀行の行員で、富裕層向けのリテール営業や法人営業を担当していました。そのため不動産の売買や賃貸借に携わる機会も多かったのですが、当時、営業担当者として感じていた「不」が、社内起業の原点になっています。
──その「不」とは、具体的にどのようなことでしょうか。
大江:営業の起点となるデータベースが、あまりに整備されていないことです。
日本の不動産業界は60兆円を超える巨大市場です。これほど大きな潜在力を秘める産業領域にもかかわらず、その現場ではアナログな作業に多大な労力が費やされており、成長の足かせとなっていました。そこで、不動産営業担当者などが抱える「不」の解消と、市場全体の活性化を目的に、登記情報などの不動産関連データベースを提供するTRUSTARTを立ち上げました。

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──設立から現在までの道のりについてもお聞かせください。
大江:同様の「不」を感じていた営業担当者や企業は多かったようで、大変ありがたいことに、スタートから3ヵ月ほどでマネタイズに成功しました。設立3年後のKPIとしていた売上目標を約1年でクリアし、2022年に親会社である三菱UFJ信託銀行からスピンアウトしました。その後も成長を続け、現在の累計取引社数は1,000社超、2023年からの2年間で売上高成長率は4倍以上にのぼります。2025年8月にはシリーズCラウンドで総額13億円の資金調達を実施し、累計調達額は21億円に到達しました。
「革新的だがわかりづらい」新規事業の鍵を握るカテゴリー戦略
──飛躍的な成長を遂げていますが、パートナーであるsusworkとカテゴリー戦略をご一緒することになったきっかけは何だったのでしょうか。
大江:当初、事業成長にむけたブランディングやマーケティングがほぼ未着手だったことが、支援をお願いするきっかけです。事業成長に本腰を入れなければと考えていた頃に、susworkの田岡さんと寺尾さんに出会いました。
──田岡さんと寺尾さんは、TRUSTARTに当初どのような印象をお持ちでしたか。
田岡凌氏(以下、田岡):第一印象は「チームの一体感が素晴らしい」というものでした。経営層と現場が一体となって、世の中にインパクトを与えたいという強い想いを感じました。また、事業の起点となっている大江さんの銀行員としての原体験も印象的で、事業化までの道筋が非常に理にかなっていると感じました。
ただその一方で、「事業の革新性が伝わりづらい」という印象があったのも事実です。たしかにニーズはありそうですが、誰が、何に利用するのか、具体的なイメージが湧きづらかったのです。
寺尾洋氏(以下、寺尾):「このサービスは間違いなく優れている。しかし、この革新性をどう市場に伝えればいいだろうか」というのが第一印象でした。というのも、実は私もメガバンク出身でして、サービスのユースケースが手に取るようにわかったからです。しかし、事業をグロースさせるためには、その利便性や革新性を世の中に直感的にわかりやすく伝えなくてはなりません。カテゴリー戦略を成功させるには、ここが肝になると感じました。

田岡:そこで共に始動したのが「カテゴリー戦略」です。既存の市場カテゴリーに事業やサービスを当てはめるのではなく、TRUSTARTがNo.1になれる市場カテゴリーを新たに創出することで、非連続的な事業成長を目指しました。特に、市場浸透の起点となるコアターゲットの定義、分かりやすい独自価値の策定、価値が直感的に伝えるためのコンテンツの3つが、事業成長の鍵を握ると捉えていました。