なぜ「カテゴリー戦略」は新規事業の勝ち筋なのか
──「カテゴリー戦略」について、詳しく教えていただけますか。
田岡:カテゴリー戦略とは、自社の独自価値を中心に、新たな市場を創造、拡大する戦略です。
たとえば、「アルバイト」と聞くと、消費者は多種多様なサービスを思い浮かべるでしょう。それに対して、「スキマバイト」と聞くと、ほとんどの方々が「タイミー」が思い浮かべるはずです。
このように、既存の市場カテゴリーで競合と争うのではなく、自社の独自価値を中心に市場カテゴリーを創り出し、No.1ブランドの地位を築くのがカテゴリー戦略です。この戦略は、既存市場で先行プレーヤー等に戦うのが困難な新規事業で有効に機能します。まだ顕在化していないニーズや、解決が諦められていた課題をすくい上げ、それにフィットする独自価値を中心としたカテゴリーを見極められれば、競合と直接戦うことなく非連続的な成長を遂げられる可能性があります。
新規事業は、「WHO」と「WHAT」の明確化から始める
──具体的に、カテゴリー戦略はどのように実行するのでしょうか。
田岡:「WHO(誰に)」と「WHAT(何を)」を整理します。いきなり市場カテゴリーを構想するのではなく、製品やサービスを通じて「誰のどんな課題を解決するために、どんな価値を届けたいのか」を明確化するのです。
これはTRUSTART様でも同様でした。特に「R.E.DATA(リデータ)」は、不動産関連情報という特定領域のデータベースですが、ユースケースは思いのほか幅広いです。そのため、私たちが参画した当初はコアターゲット層が曖昧で、WHOとWHATが整理しきれていませんでした。そこで、大江さんをはじめTRUSTARTの皆さんと議論を重ね、「センターピン」となるターゲットと提供価値を明確化していきました。
大江:このプロセスは、我々にとって非常に有意義でした。実を言うと、以前からターゲットの選定には頭を悩ませていました。様々な方から「士業のニーズがあるのでは?」「リユース業界に営業してはどうか?」といったアイデアを日常的にいただきますし、私も二兎を追いたくなる性格なので、コアターゲットを絞れずにいたのが正直なところです。
しかし、新しい事業である以上リソースには限りがあり、複数の業界をターゲットにすれば、各業界への理解や情報収集も遅れがちになります。事業を飛躍的に拡大させるためには、まずコアターゲットを絞り、リソースを集中的に投入する必要があったのです。

田岡:実際の顧客の分析をした上で見出したコアターゲットが、「不動産買取再販企業の経営層」でした。「R.E.DATA(リデータ)」の価値を最も感じていただける、そしてLTVが高いのが、不動産の仕入れがビジネスの根幹となる買取再販事業者だと考えたのです。また、WHATにあたるカテゴリーも「不動産オーナーデータ」と再定義しました。またコアターゲットの方々の課題を解決するユニークな価値の仮説をいくつか立てた上で、広告、LP、商談などの検証を経て、「競合より先に優良物件にアプローチできる」というシンプルな独自価値を磨き込みました。
大江:私自身も経験があるのでよくわかりますが、不動産営業担当者は「不動産を売りたいと考えている人」の情報を喉から手が出るほど欲しがっています。そうした情報を高い解像度で得られることを強く打ち出すのが、「R.E.DATA(リデータ)」の勝ち筋でした。
現在、「R.E.DATA(リデータ)」は「不動産オーナーデータ」というカテゴリーのもと、サービスの拡販や情報発信を行っています。独自のカテゴリーを確立できたことはもちろんですが、それ以上に「『R.E.DATA(リデータ)』がどのようなサービスなのか」を格段に説明しやすくなったのが大きな収穫です。以前に比べて、初めてお会いするお客様にも、サービスの提供価値を的確に伝えられるようになったと感じています。