AIの進化ロードマップとその最終段階とは
栗原:では次に、今後のAIの進化予想についての見解をお伺いできますか。
溝畑:同じハードウェアの上でAI自体も100倍の性能モデルが動くことになります。知能指数にダイレクトに影響するわけではありませんが、AI自体も急速に進化することが分かると思います。

こうした背景から、2029年にはこの予測は現実のものとなると思われます。OpenAIやDeepMindも同様の考えで、AIの進化を5段階に整理し、チャットボットから始まり、次第に高機能になるAIが組織に浸透していくものと想定しています。

かつてのAIは反復的な実行作業のみが可能で、企画は難しいと考えられていました。しかし、生成AIは企画の領域でも力を発揮し始めています。それを踏まえると、一部の判断や承認すらAIに委ねられるようになる可能性があります。2029年頃には、AIが立案した企画をAI自身が承認する局面も訪れるでしょう。
2030年以降にはパソコン1台で高性能AIを稼働できるようになり、それを搭載したロボットも急速に低価格化します。物流や小売、EC運営などでは業務全体をAIに委ねられるようになり、極端に言えば2035年には巨大ECサイトの物流部門すべてがAIに運営されるといった未来もあり得るかもしれません。

重要なのは、OpenAIやDeepMindが「AIが組織に浸透し、社会構造そのものを変革していく」という展望を明確に示している点です。私たちもまさにその方向に進んでいると考えています。
CTOがAI推進者とCIOを管理する組織体制
栗原:では、そうした状況に企業はどう備えるべきでしょうか。
溝畑:多くの企業ではCIOが社内システムを統括していますが、現在の役割では安定稼働やリスク管理といった「守り」に重点があります。新しいAI活用を攻めの姿勢で推進するのは難しく、各事業部にもAIを使う人材はいても、開発や実装まで担える人はほとんどいません。だからこそ、事業部横断でAI導入の責任を持って推進できる役割が欠かせないのです。

要は、新しい人材を採用するのと同じ感覚で「AIを社内に迎える」ことです。日常業務をAIでアルゴリズム化し、現場レベルで推進できる組織体制こそが、今後の成長を左右します。
栗原:その際には、人間の心理的な抵抗も課題となりそうです。自分が長年担ってきた業務が自動化されることに不安を抱く社員も少なくありません。だからこそ、現場の業務と技術の両方を理解し、橋渡しできる人材の存在が欠かせないのではないでしょうか。
溝畑:まさにそのとおりです。現場に寄り添い丁寧に説明できる人と組み合わせて進めることで、初めて信頼を得て組織変革を実現できます。技術的なノウハウは外部から持ち込めても、それを社内に浸透させる「つなぎ役」は現場を熟知した人材にしか務まりません。だからこそ、経営は適切なチーム組成を意識的に設計しなければならないのです。
栗原:AIを社内に迎え入れる「AI推進責任者」の存在が重要だということですね。本日はありがとうございました。