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Biz/Zine Day 2025 October

ROIの壁は突破できるか?LIXILとMUFGが語る「CX経営」の課題と挑戦

登壇者:LIXIL 高橋マイク氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ 長谷川亘氏

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LIXILの選択:「育成」と「ドメイン知識」の重視

 CX推進というミッションは明確になったが、次に立ちはだかるのが「誰がそれを実行するのか」という人材の壁である。この課題に対し、両社の戦略は実に対照的なアプローチを見せた。

 高橋氏がUXの重要性を感じ始めた3〜4年前、LIXILにはまだ専門部署が存在しなかった。「1人でやっても属人化するだけ。できる人を増やさないと定着しない」 と考えた高橋氏だが、当時のLIXILは中途採用に積極的ではなく、「今いる人材を活用しましょう」という文化が強かったという。

 その結果、高橋氏が選んだのは「人材育成」の道だった。

「3年ほど前は(採用ではなく)人材育成をせざるを得ない背景がありました」(LIXIL・高橋氏)

 高橋氏がまず着手したのは、外部の専門家と対等に議論できる人材を内部で育てることだった。凝り固まった考え方がなく積極性のある一般職の社員を社内スカウトし、育成プログラムに参加させた。その後は、社内イベントに自ら登壇し、その後の懇親会で「今日良かった」「興味があった」と声をかけてきた社員に対し、「次のプログラムに参加してみたら」と、地道に仲間を増やしていったという。

 高橋氏は、この「現場知(ドメイン知識)と実装スキルの組み合わせ」こそが、CX組織の立ち上がりを短縮する鍵だったと振り返る。

MUFGの選択:「採用」と「スピード」の追求

 LIXILとは対照的に、MUFGの長谷川氏は「スピード」を最重要視し、「中途採用(キャリア採用)」を戦略の軸に据えた。

「銀行員をデザイナーにするのは時間がかかる。金融の状況も待ったなしでした。そのため、キャリア採用を重視すると決めました」(三菱UFJ銀行・長谷川氏)

 ジェシー・ジェームズ・ギャレット氏が、著書『The Elements of User Experience』で提唱した、ウェブサイトや製品のユーザーエクスペリエンス(UX)を設計するためのフレームワークに「UX5段階モデル(戦略・要件・構造・骨格・表層)」がある。MUFGでは、その中でも、特に上流である「戦略」「要件」を担えるリーダー格の人材を外部から採用。昨年(2024年)の立ち上げ期はインハウスデザイナー8名体制だったが、関連会社や外部パートナーも含め、次期中期経営計画期間中には全体で100名規模のデザインを回す体制を目指している。

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 もちろん、既存の銀行員に対する育成(非デザイン人材の教育)も並行して進めている。持続的な顧客体験向上のためには、実際にお客さまと接するなど、お客さまが利用する商品・サービス・チャネルの最適解を常日頃から考えている行員のリスキルが不可欠であるとの考えからだ。

 「今中計期間中は300名単位で研修を行い、来中計の期間では、事業本部の2,000名全員がデザインを理解している状態を目指しています。また、担当者が実務を学ぶだけでなく、ミドルおよびシニアマネジメント層がデザインをいかに経営に取り込むかに関する研修が肝要だと思っています」と、長谷川氏は意気込む。

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 実際、部門内(N=200)の事前アンケートでは、8割以上がCXと関連した業務に従事しており、7割以上が研修に「関心がある」と回答するなど、現場のニーズは高いことが示された。

CX人材を「育成する」か、「 採用する」か

 では、「育成」と「採用」、どちらが正解なのか。

 高橋氏は「結果論」 と前置きしつつ、育成で良かった点とし「ビジネス理解度(業務知識)」を挙げた。

「結果論ですが、育成で良かった点は商品知識やビジネス理解度(ドメイン知識)は既存社員のほうが当然、豊富だった点です。内部育成の利点がそこにありました」(LIXIL・高橋氏)

 自社の商材や商流、そして長年培われてきた暗黙知や組織文化。こうした「ドメイン知識」を持つ内部人材がCXの視点を持つことの重要性が、LIXILの事例から浮き彫りとなった。

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真の鍵は「ブリッジ人材」。そしてROIの壁

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Biz/Zine編集部(ビズジンヘンシュウブ)

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