担当者の本音が続々、成功の裏にあるリアルな挑戦
共創の秘訣は「入口から一緒に」
セッションの後半では、宇都宮市 総合政策部の馬場将広氏がモデレーターとなり、より実践的な議論が交わされた。最初のテーマは「共創でうまくいく秘訣」である。
堺市の羽田氏は、完成したソリューションを持ち込むのではなく、「入口から一緒に話をしながら進めていく」ことの重要性を強調した。ともに課題を定義し、解決策を模索するプロセスが成功の鍵であると語った。
一方、神戸市の武田氏は、「実証実験(PoC)の先にある社会実装をどうするのか、すごく真剣に考えている」と述べ、事業の継続性を見据えた議論ができることの重要性を指摘した。行政との連携は単発で終わりがちであるため、その先にあるマネタイズまで見据える視点が不可欠だという。

また、宇都宮市の鈴木氏は、アイデアを募集しつつも、既に担当課が動いている課題は取り上げづらいという行政特有の背景を踏まえ、「市が課題を認識しつつも具体的に取り組めていないテーマ」への提案が有効であると語った。
押さえておきたい行政特有の“ルール”
ディスカッションでは、多くのスタートアップが直面する「toG(行政向け)ビジネスの難しさ」も議題に上がった。
相模原市の多良氏は、「toGビジネス」と、行政が仲介役となる「産官学連携」はまったく別物だと指摘。toGは内部調整の難易度が非常に高い一方で、産官学連携は「我々が最も動きやすいテーマ」であり、行政を「大手企業や大学と協業しやすくなるためのツール」として活用することが有効だと述べた。
神戸市の武田氏も、「行政は『えこひいきしてはいけない』と言われる」ため、随意契約が難しく公募が原則となるなど、民間ビジネスとは異なるルールが存在することを説明した。
堺市の羽田氏は、「一度話して駄目だったら終わりということではなく、諦めずにいろいろとお話をすることで、タイミングによって物事が進んでいくこともある」と語り、粘り強いアプローチの重要性を訴えた。担当者が変わるだけで状況が一変することもあるというのだ。
成功の裏に無数の失敗あり。次に活かすための振り返り
成功事例の裏には無数の挑戦がある。最後に「失敗と成功」について議論が交わされた。
武田氏は、自身にとっての失敗を「良いと思った提案を庁内の担当課に持っていくも、受け入れられなかったこと」だと定義した。宇都宮市の鈴木氏もこれに強く共感し、「担当課に持っていって受け入れられなかったことは何度もある」と自身の経験を語った。
このような状況で心が折れない秘訣として、相模原市の多良氏は「期待値コントロール」の重要性を語った。「『百発やって一発当たれば良いだろう』くらいの気持ちで、お互いに期待値を高めすぎないようにしている」というのだ。
川崎市の藤本氏は、「スタートアップ支援の窓口は、アイデアを担当課に“営業”する立場だからこそ、どこよりも失敗している。内部のノウハウを蓄積して次に活かし続けてきた」と話す。

最後にモデレーターを務めた馬場将広氏は、「スタートアップ支援は、企業誘致や移住促進のような“取り合い”とは異なり、他の自治体と連携してお互いに得ができる」とし、「失敗を共有しながら、スタートアップの人たちとさらに知見を蓄積していくことが重要。皆でそういったことに取り組めたら良い」と、都市間の連携によるエコシステム全体の発展に期待を寄せ、パネルディスカッションを締めくくった。
