「資本家のジレンマ」に陥る理由をつくるのはファイナンスなのか?
クレイトン・M・クリステンセン(Clayton M. Christensen)
ハーバード・ビジネススクール(HBS)の看板教授であり、イノサイト社の創設者。「破壊的イノベーション論」で一躍ビジネス界に不動の地位を確立した。発表した論文は、50年以上の歴史をもつマッキンゼー賞受賞5回を含む数多くの賞を授与している。『イノベーションのジレンマ』(増補改訂版、2001年)、続編の『イノベーションへの解』(2003年)、『イノベーションへの解 実践編』(2008年)、『教育×破壊的イノベーション』(2008年)、『イノベーションのDNA』(2011年)、自身初の人生訓となる『イノベーション・オブ・ライフ』(2012年)などの邦訳書がある(いずれも翔泳社)。
効率化イノベーションで生み出した資本を、「破壊的イノベーション」に投資すれば長期的な成長は可能だ。しかし、それは正論に過ぎない。なぜならば、手元のお金は効率化イノベーションに再投資したほうが確実に、早く、儲かるからだ。破壊的イノベーションは、それまでの知識や経験が活きず、不確実でうまくいく保証がないうえに、成功したとしても、時間が非常にかかる。効率化イノベーションには確実性がある。効率化に投資したとすると、削減できる人件費や期間は比較的明確で、回収期間も予測がしやすい。これが「資本家のジレンマ」である。