ホールディングスが担うべき「規律」と「人材プール」
池側:持ち株会社(ホールディングス)と事業会社での役割分担は、多くの企業が悩むポイントです。御社ではどのように整理されていますか。
広瀬:先ほど申し上げたとおり、HDはIRや資本配分、そして各事業の実態を定量と定性の両面で把握するFP&Aを担うべきだと経営トップも認識しています。
もう一つの重要な役割は「人材プール」の形成です。損保、生保、介護など異なる収支構造を横断的に理解できる人材はHDでしか育てられません。若手を各事業間でローテーションさせ、グループ全体を俯瞰できる「経営人材」を育成する場として機能させています。
池側:損保ジャパンにおいては、かつては各部署に分散していた機能を、なぜ「事業分析室」として集約されたのでしょうか。
藤谷:以前は商品部門や経理部など、いくつかの部門がそれぞれ業績予想を行っていましたが、精度や分析の深さに課題があったのです。
集約にあたっては、関わる人数を以前の3分の1程度に絞り込みましたが、その代わり大部分のメンバーを「FP&A専任」としました。これにより、専門性を高めると同時に、経営陣へのレポートの質を劇的に向上させることができました。
利益の実額ではなく「ROE」と「EPS」を重視する理由
池側:中期経営計画(2026年度まで)では、ROE 13〜15%という高い目標を掲げています。利益の実額ではなく、あえて「率」や「EPS」を重視されている意図を教えてください。
広瀬:激変する環境下で、3年先の利益の実額を正確に見通すのは困難です。特に保険事業は自然災害という制御不能な要因で単年度の利益が大きく振れます。
一方で、ROE(自己資本利益率)は株主に対する資本コストを超えるリターンの約束であり、EPS(1株当たり利益)は自社株買いなどの経営アクションでコントロール可能な要素を含みます。これらをKPI(重要業績評価指標)とすることで、経営の意思を込めたコミットメントとしているのです。
池側:国内損保事業においては、どのような変革に取り組まれているのでしょうか。
藤谷:現在は「ポートフォリオ変革」を掲げ、単純な規模(売上高)の追求から「質の向上」へシフトしています。
保険は、保険料を先に受け取り、事故後に原価(保険金)が決まる「後決め」のビジネスです。インフレによる修理費の高騰や自然災害の増加に対し、いかに機動的に価格を見直せるか。FP&Aは商品部門と共に、収益性を精緻に分析し、戦略に反映させるプロセスを主導しています。
不祥事を機に再定義された「FP&Aという規律」
池側:組織強化の背景には、やはり一連の不祥事の影響も大きかったようですね。
広瀬:はい。先ほど触れたとおり、無理な利益追求が生じる収支構造を見逃さないためにも、FP&Aという第三者的な「規律」が必要です。
現在はHDのグループCFO(最高財務責任者)の下に、経営企画部と経理部を並列で配置しています。実績データを扱う経理と、分析・予測を行うFP&Aが完全に連携する、非常にアメリカ的で合理的な座組みに整理しました。
池側:組織変更に際して、社内のアレルギーはありませんでしたか。
広瀬:むしろ、これまで曖昧だった「誰がどこまでやるのか」という命令系統が明確になり、歓迎する声が多かったです。「日本にはなかったが、欧米にはこういう専門職がある」と整理したことで、現場の納得感も得られました。
