求めるのは単なる「ITスキル」ではなく「ビジネスアウトプット」
小宮:エキスパートの認定基準や育成において、特に重視しているポイントは何ですか。
伊藤:エキスパートのレベルは3段階に分かれていますが、上位レベルで最も重視しているのはコーディングやAIプロンプトの技術力そのものではなく、「AIを使ってどのようなビジネスアウトプットを出したか」という点です。認定面接でもここを厳しく評価しています。
また、専門領域に閉じこもらず最新技術をキャッチアップするため、AIのトップカンファレンスや学会への論文投稿・発表を推奨しています。外部の発信を通じて世界の最先端研究者と対話し、フィードバックを得ることが、結果として社内の暗黙知や複雑なノウハウをAIに組み込むブレイクスルーにつながっています。
ハードウェア設計のAI化が「SDVや自動運転」の土台を支える
小宮:開発のフロントランナーとして直面した課題と、それを踏まえた日本の製造業全体へのメッセージをお聞かせください。
伊藤:今、自動車業界の投資は自動運転やSDV(ソフトウェアデファインドビークル)に集中しがちです。もちろんそれは重要ですが、土台となるハードウェアの設計・開発領域におけるAI化がおろそかになれば、少子高齢化による若手エンジニア不足も相まって、日本のもの作りの根底が揺らぎかねません。
労働集約的になりがちだった従来の設計プロセスをAIで置き換え、効率化と高度化を両立させること。そして、日本企業が培ってきた緻密な設計手順や現場の「すり合わせノウハウ」をAIエージェントのアルゴリズムとして昇華させること。これこそが、グローバルなAI競争における日本の製造業の決定的な勝ち筋になると信じています。
経営層と現場の解像度のギャップを埋める
伊藤:推進上の課題を挙げるとすれば、経営課題と現場のAI技術における「解像度のギャップ」です。「AIで会社を変えたい」という経営陣の思いと、具体的な現場の変革手法にはまだ距離があります。今後は経営層自身にも高いAIリテラシーを持った人材を増やし、経営会議レベルでAI駆動型の組織変革を直接意思決定できる体制を整えていく必要があります。
小宮:最後に、これからの「HondaのAI」が目指す未来のビジョンについて教えてください。
伊藤:Hondaは「夢」を原動力とする会社です。AIエージェントによって従来の調整業務や作業が極限までスマート化されれば、エンジニアやデザイナーは「どんな未来の移動体験をつくりたいか」という本来の創造性に100%のエネルギーを注げるようになります。
さらに将来は、開発現場で活躍するAIエージェントが、製品であるモビリティやカスタマー体験ともリアルタイムでつながっていくはずです。お客様からのフィードバックや市場のデータがダイレクトに最上流のAIへ流れることで、顧客と開発者が一体となって価値を創出する世界観を目指していきます。
小宮:現場の強みと先進AIが融合したHondaの挑戦は、日本の製造業が目指すべき一つの大きな道標ですね。本日は誠にありがとうございました。



