「強み」の継承と「標準化」の追求:星野リゾートが描くHRの未来
続いては、2026年に創業112年を迎えた星野リゾートの佐野歩氏(人事グループ ディレクター)と、久本英司氏(情報システムグループ ディレクター)によるセッション「創業112年の挑戦:星野リゾートが『内製』を脱し、Workdayで描く人材プラットフォームの未来」だ。
右)星野リゾート 情報システムグループ グループディレクター 久本英司氏
同社は1992年に「運営特化戦略」を掲げ、小規模旅館の再生やマスターブランド化を推進。2016年からは「世界で通用するホテル運営会社」を目指し、グローバル市場へ挑戦している。
生き残り戦略の核は「Branding」「運営特化&REIT」「独自魅力づくり」「Flatな組織文化」「サービスチーム」の5要素だ。特に重要なのが、経営情報を全社共有し「さん付け」で議論する「フラットな組織文化」と、1人のスタッフがマルチタスクをこなす「サービスチーム」体制である。

「マルチタスクにより顧客接点が増え、現場の『気づき』から新たな商品開発が生まれる。このサイクルこそが最大の強みです」と久本氏は語る。

しかし、国内外77施設・約8,000名規模へと拡大し、将来の「1万人企業」を見据える中で、100以上の仕組みを自作してきた「内製システム」は限界を迎えつつあった。
内製システムの限界と「Fit to Standard」の正しい理解
既存システムの2029年限界を見据え、同社はHRモダナイゼーションを決断。データの統合性や先進性を評価し、新たな核として「Workday」を選定した。勤怠・給与SaaSやSmartHR等を組み合わせ、独自の指標分析のみを外付けするクリーンなエコシステムを採用している。

この再構築を、事前準備での入念な業務モデリングによりわずか8か月で完了させ、2026年4月1日に本稼働を迎えた。成功の要因について佐野氏は「Fit to Standard」の正しい理解を挙げる。
「『Fit to Standard』とは、自社を無理やり合わせることではありません。守るべき思想とシステムに合わせる定型業務を徹底的に整理するプロセスでした。結果として、大切にしてきた組織思想を妥協せず導入できました」(佐野氏)

今後は給与・勤怠機能の安定化を進め、Phase 2としてWorkdayによるタレントマネジメント機能の導入を本格化させる方針だ。
今回のAstemoと星野リゾートの事例は、DXを推進するミドルマネージャーに重要な示唆を与えている。星野リゾートが示したように、パッケージ標準に合わせるプロセスとは、自社が守るべき強みと共通化できるノンコア業務を厳格に切り分ける作業だ。また、Astemoがデータ品質向上を最優先するように、AI活用や高度な経営判断には「データの正確性と定義の統一」が欠かせない。
バラバラのシステムを統合し、人と組織の正しいマスターデータを把握できる戦略OSを構築すること。ツール刷新にとどまらない「経営インフラの再定義」こそが、変化の激しい時代を勝ち抜く鍵となる。
