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「SaaS Is Dead」で淘汰される会社、生き残る会社──「Beyond SaaS」の実装とは?

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「人が主、システムが従」から「AIが主、人間が従」へ

 「SaaS Is Dead」という刺激的な言葉の背景には、技術的な製造プロセスのコストダウンと、ユーザーとシステムの「主従関係の逆転」がある。TOKIUMの西山希氏はこの変化を以下のように解説する。

「これまでは『人間が主、システムが従』であり、人がソフトウェアを操作して仕事をしていました。しかしAIエージェントの登場により、これからは『AIが主として自律的に作業を回り、人間しか判断できない部分を人間が代替する』という逆転現象が起きます。そうなると、アカウント数に応じたライセンス課金だけで対価をいただくモデルは通用しなくなります」(西山氏)

 この意見に対し、マツリカの佐藤風太氏も同意を示しつつ、AIの脅威に晒されやすいプロダクトと、生き残るプロダクトの条件を3つの軸で整理した。

  • ターゲット層:シンプルな要件で済むSMB(中小企業)向けは代替されやすいが、複雑なセキュリティや保守要件が求められるエンタープライズ(大企業)向けは代替されにくい。
  • データの特性:人事や顧客データなど、企業の根幹となる「記録のためのシステム(SoR:System of Record)」を正確に保有しているプロダクトは強い。一方で、UI/UXの使いやすさや見やすさだけに依存していたツールは、AIに容易にリプレイスされる。
  • 提供価値の定義:単なる「業務効率化」に留まるツールはAIの得意領域。対して「商談数増加」や「受注率向上」といった、企業の「成果創出」に直結するソリューションは生き残る。

「誰も勝者がいない世界」コモディティ化の恐怖

 ログラスの伊藤駿氏は、AIによってソフトウェア開発の民主化が進んだ結果、淘汰とは異なるもう一つの危機である「コモディティ化の罠」を指摘した。

「簡単に作れる領域のソフトウェアは、自社開発やSIerによる代替だけでなく、SaaSベンダー同士が互いの領域に浸透し合うことで、結果的に『誰も勝者がいないレッドオーシャン』と化す可能性があります」(伊藤駿氏)

 同氏が重要視するのは、データが「AI-readable(AIが読み取り、解釈しやすい状態)」で格納されているかという点だ。

「シェフがAIなら、データは食材です。経営管理データがExcelに散らばったままだとAIは正しく読めず、計算を間違えます。AIが解釈できる形でデータを綺麗に構造化して保持するソフトウェア(キッチン)と、その上で動く高度なAIエージェント(シェフ)の両輪が揃って初めて、価値が生まれます」(伊藤駿氏)

「Beyond SaaS」のエクイティストーリー

 今後、株式市場への上場を見据えるスタートアップ3社は、投資家に対してどのような成長物語(エクイティストーリー)を提示していくのか。各社は「SaaS」という手段のラベルを剥ぎ取り、それぞれのドメインにおける「What(何を成し遂げるか)」を語り始めた。

■ログラス:「CFOのAI参謀」が目指す10兆円市場への挑戦

 ログラスが掲げる未来像は、CFO(最高財務責任者)の右腕となる「AI参謀」の確立だ。業績分析や経営計画の未達リスクの先回り検知など、これまで人間が何日もかけて行ってきたFP&A(財務計画・分析)業務を、AIエージェントが数分で代替・示唆する世界を目指す。

「従来の国内SaaSの市場規模は2兆円程度ですが、個別開発やSIer(システムインテグレーター)の領域まで踏み込むことで、市場は10兆円規模へと拡張します。東証の時価総額合計は約1,300兆円。我々のAI参謀が企業の利益率を1%向上させるだけで、10兆円以上の価値を社会に創出できる。そのストーリーを数値で証明していきます」(伊藤駿氏)

マツリカ:「SoR」と「SoA」の両輪が回すネイティブAIの強み

 マツリカは、単なるデータの記録(System of Record)にとどまらず、蓄積されたデータを基にAIが自律的に提案書の作成や顧客抽出などの行動を起こす「System of Action(SoA:行動のためのシステム)」の領域に注力する。

「我々は『SaaSの会社』ではなく、創業時から『AIネイティブな会社』としてプロダクトを設計してきました。AIが精度の高い行動(Action)を多く実行すれば、そこからまた質の高いデータが記録(Record)される。この循環構造を作ることが、他社が追随できない圧倒的な参入障壁になります」(佐藤風太氏)

■TOKIUM:「ソフトウェアの原価構造」で人件費市場を飲み込む

 TOKIUMの西山希氏が提示したのは、最もドラスティックなビジネスモデルの転換だ。同社は、新サービス「AI Agentic BPO」を軸に、企業の業務プロセスを端から端までまるっと引き受け、成果物のみを納品する「業務オーケストレーター」を目指す。

「狙うのは、従来のBPOや人材派遣の『人件費市場』です。競合となる既存のBPOベンダーが多くの人員を抱えてプレイする中、当社はAIエージェントを主軸とした『ソフトウェアの原価構造・PL構造』のまま、安価かつ高品質に業務を完結させます。競合の売り上げを代替しながら、高い利益率の実現を目指します」(西山希氏)

「SaaS Is Dead」論自体の死と、個別選別のリアリズム

 パネルディスカッションの締めくくりに、ログラスの伊藤駿氏が放った「今日のイベントをもって『SaaS Is Dead』という言葉自体をデッド(SaaS Is Dead Is Dead)させたい」という言葉は極めて象徴的であった。

 市場は既に、「SaaSか否か」「AIか否か」という主語の大きな抽象論のフェーズを終えている。投資家の資金の目線も、2026年秋に噂される大物AIレイヤー企業のIPO環境を見据えながら、「実際に数値を出し、実業を変革できている個別企業」の選別へと完全に移行している。

 単一のソフトウェアをクラウドで提供するだけの「従来型SaaS」は、確かに機能不全に陥りつつあるかもしれない。しかし、今回登壇した3社が示したのは、以下の進化の道筋だ。

  • システム単体に閉じず、複数のツールやオフラインのオペレーション(BPO/コンサル)までを統合する「オーケストレーション」の視点。
  • AIの精度を担保するための、徹底的に磨き上げられた「データの質」の確保。
  • ライセンスの切り売りではなく、顧客の「成果・時価総額の向上」にコミットするビジネスモデルへの再定義。

 経営企画や新規事業開発を主導する読者にとっても、自社が導入する、あるいは開発するテクノロジーの評価軸を「機能の便利さ」から「AI前提のワークフローに深く組み込めるか」へとアップデートする、実践的な羅針盤となるはずだ。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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