「3要素・7ステップ」で仮説検証を繰り返し、不確実性を潰す
栗原:新規事業の経験がない経営企画責任者が、社内プロジェクトを前に進め、審査を突破するための具体的なプロセス(お作法)やコツは何でしょうか。
井上:大企業で予算を獲得し、対外的な説明責任を果たせる事業計画に仕上げるためには、下図に示す「3要素・7ステップ(調査・アイデア出し・計画立案)」を着実に踏むことが不可欠です。
- 自社分析(現状の課題提起)
- 外部環境分析(市場トレンド・仮説出し)
- 競合動向分析(競合のリストアップと戦略考察)
- 事業機会の発見(顧客ニーズの模索)
- 他業界知見の活用(成功・失敗パターンの移植)
- 参入戦略(立ち上げ・初期の戦い方)
- 事業計画策定(ストーリー化と収支計画)
大企業がインキュベーションプログラムを実施するのは、組織活性化と経営幹部候補育成という狙いもありますが、経営者が最も嫌うのは「経営の不確実性(リスク)」です。機関投資家に向き合う大企業は計画との乖離を嫌います。不確実性を完全になくすことはできなくても、インタビューやプロトタイプの検証、ユーザーテストといった仮説検証を繰り返し、少しでも安心感のある材料を事前に揃えることが承認のコツです。なお、ピッチ資料はプレゼン用(魅せる)と配布用(読み込ませる)で分けるのが鉄則です。
特に効果的なのが「5. 他業界知見の活用」です。たとえば、ネット葬儀手配の「よりそうお葬式(株式会社よりそう)」が急成長した際、その経営陣には「SUUMO」出身者が多く集まっていました。一見異なる業界ですが、「一生に数回しか経験しない」「情報非対称性が高く比較決断が必要」というカスタマーアクションがまったく同じだったのです。住宅業界の知見を移植したように、他業界の成功パターンを活用することは不確実性を劇的に下げる鍵となります。
飛び地を避け「意思決定ツリー」を柔軟に運用する
栗原:既存事業と同じ稟議感覚で審査すると新規事業の芽を摘んでしまいますが、「意思決定ツリー」はどう運用すべきでしょうか。
井上:弊社の基本モデルである意思決定ツリーを、自社のガバナンスに合わせてカスタマイズして運用することをおすすめします。大企業で最も苦戦するのは、思いつきや噛み合わないM&Aなどで既存資産がまったく使えない完全な「飛び地」に進出してしまうケースです。リソースが分散し投資魅力も薄れるため、その後の経営企画は非常に苦労することになります。
ツリーの判断軸では、まず「事業アイデアが経営戦略に沿っているか」を確かめ、次に「自社のアセットやケイパビリティで実現可能か」を問います。続いて「魅力的な事業計画か(バリュープロポジションが明確か、新しい顧客層を取り込めるか)」を検証し、最後に「実現可能性(大風呂敷を広げず、戦術レベルのスケジューリングや実行計画に落とし込めているか)」を見極めます。このステップを踏むことで、ガバナンスを守りつつ筋の良い事業へ集中投資するための精度向上に貢献が可能です。



