開発競争から「現場の実装」へ。AI時代における日本の勝ち筋
米倉:ここまでは組織文化の課題について伺ってきましたが、一方でイノベーションの根幹について、シュンペーターは新しい技術が出てくると「エコノミックスペース(経済的空間)」ができると言いました。そして今、まさにAIという巨大な波が来ていますが、ここで大企業とベンチャーが組んで戦う可能性についてどう見ていますか。
髙橋:それについては、非常に大きな可能性があると思います。実は私、社長時代は会議ばかりでしたが、会長になって部下がいなくなり、毎日AIと遊ぶ時間ができて非常に幸せな日々を送っています。だからこそ日々感じているのですが、本当にこんなに面白い産業はないですよ。確かに、米国が基盤モデルなどの上のレイヤーで先行していますが、日本が勝負すべきは「エンドユーザーに近いところ」なのです。つまり、AIを現実の産業や現場にどう落とし込んでいくか。特にフィジカルAIの領域にこそ、日本の産業を守り発展させる鍵があると思っています。
平井:その点は私も同意見です。そもそもAIは90年代のインターネット革命から生まれた、全産業にまたがるインフラになります。そう考えた時、誰もが最先端のフロンティアモデルを開発する必要があるでしょうか。むしろ、日常の仕事や現場で必要とされるのは、きちんと再現性があり、安心・信頼できるAIを社会に「実装」していくことです。これこそが、日本が最も得意とする分野なのです。ですから、バーティカルAIやフィジカルAIの領域で、信頼性の高いAIシステムを現場に実装し、圧倒的に生産性を上げていく。そこにこそ日本の確かな「勝ち筋」があると確信しています。
アフリカやインドの課題を解く。AI×SDGsが拓く巨大市場
米倉:その「AIを社会実装していく」という視点で考えると、最近「SDGsおじさん」と呼ばれている私としては、実はあの領域にものすごいビジネスチャンスがあると感じています。というのも、農業の生産性向上や水資源の管理、森林保全など、テクノロジーを掛け合わせるととんでもないイノベーションが起こせるからです。ただ、たとえばインドでは、農民たちにGoProをつけさせて技をデータ化するような動きが国を挙げて始まっています。それに比べると日本は少しスピード感で出遅れている気がするのですが。
宮内:その際、忘れてはならないのは、AIというのは本来「人間を豊かにするもの」でなければならないということです。中国の最先端AIは米国の何分の一かの経費で開発できているという話もあります。それは確かに強烈な競争です。しかしだからといって、基盤開発競争のど真ん中に入れないから敗北だと思う必要は全くありません。なぜなら、AIによって人類の時間が余り、より豊かな世界ができるとしたら、そこには山のような新しい事業の種が転がっているからです。AIは素晴らしいビジネスオポチュニティを人類に与えているのです。
米倉:本当におっしゃる通りですね。あえて言いますが、AIの開発そのものにおいては、日本はもう20周遅れです。しかし一方で、日本の強みは「世界中どこで発明されたものでも、より安く、より軽く、より早く現場に普及させること」にありました。だからこそ、その強みを活かして、AIを使ったソリューションをアフリカやインドなど、途上国や新興国のハピネスのために広げていく。そこに日本の大きなオポチュニティがあるはずです。本日は素晴らしいお話をありがとうございました。



