社長直下の新規事業部門に集められたメンバーは、新規事業に精通していたわけではなかった
1899年の創業以来、100年以上の長きにわたり日本の製菓業界を牽引してきた森永製菓株式会社。伝統的な大企業である同社だが、世の中の大きな変化に対して「既存ビジネスだけでは立ち行かなくなる」と危機感を抱いていた。
しかし、新規事業プロジェクトの多くは、立ち上がっては消えていった。多くの日本企業がそうであるように、森永製菓では長年既存事業の枠組みで成長している。既存の枠組みで成果を上げるオペレーションエクセレンスの人材は多いものの、ゼロからイチを生み出すことは未知の領域だ。そのため机上の空論で終わり、自然消滅することが多かったのだという。
「このままではいけない」と立ち上がったのは、社長の新井徹氏だった。新たな事業を生み出さねばという意識が強い新井社長は、社長直下の事業部として2014年4月、新領域創造事業部をスタートさせる。各部門のエース級の社員をメンバーとして集め、本気度を示した。
新領域創造事業部の部長に就任したのは、大橋啓祐氏だ。営業10年、商品開発・マーケティング10年と、既存事業で長く活躍をしていた。今でこそ、大企業とスタートアップとの協業の好事例としてオープンイノベーション関連の様々なイベントに登壇する大橋氏だが、「もともとは新規事業にまったく興味はなかった」という。ただ、以前トラブルの多い輸入事業を見事にマネジメントした実績があり、トップからの信頼も厚かった。
チーフマネジャーの金丸美樹氏は、マーケティング部と広告宣伝部を経験し、その間に結婚・出産という大きなライフイベントを経験する。育児休暇明け後、新規事業を企画するイノベーショングループに異動し、インバウンド施策としてアンテナショップの立ち上げを担当した。明るく推進力にあふれる金丸氏も、最初から新規事業に前向きだったわけではない。しかし、インバウンド施策で中国人向け「DARS」をゼロから企画するなど、新しい取り組みを行ううちに、新規事業の楽しさに目覚めていく。
新規事業にポジティブではなかったメンバーの中、マネジャーの渡辺啓太氏だけは少し違っていた。彼は2009年の入社後、名古屋で営業として勤めながら、社内ビジコンに応募するなど熱心にアピールしていた。その動きが金丸さんの目に留まり、共にアンテナショップの企画を行うこととなる。その中でも、予算内で自主的に製品を企画販売し、「新しいもの好き」を前面に出していた。金丸さんが異動した後は、沖縄でのアンテナショップ立ち上げをやり遂げ、2015年に新領域創造事業部の一員に加わった。