自らの弱さや苦悩を語るリーダーが得たものとは
さきほどのストーリーテリングは、あるイギリスの病院が組織変革プロジェクトを始めようとした時にCEOによって語られたものである。そして、Bateによると「ノーモア・Mr.スミス」が彼らのチームの合言葉になったという。
この語りは、人々が日々の仕事の中で、何か自分が良いと思っている組織の在り方と組織の日常との間にある断絶(相対化される日常的な経験)に語り得ぬ苦悩を感じているただなかに語られたものである。そして、この語りに多くの組織メンバーが“しっくりきた”のだった。そして、他のメンバーが「実は私の部署でも同じようなことがあって」と語り始め、変革は進んでいった。組織で働く多くの人が語り得なかったことが語られた時、その言葉は組織を新たな現実、新たな物語へ誘う媒介として人々を異なる存在へと変えていくのである。このしっくりくる言葉を見出すことが、冒頭の二つ目の私の答え「自分の正しさを保留し、相手には相手なりの正しさを認め、その接点を探していくこと」へとつながっている。