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OMO-UX戦略 マーケティングのリ・デザイン

競争優位は「バリューチェーン」から「バリュージャーニー」へ──これから起こる産業構造の転換とは?

第2回

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 第1回では、中国で起きているデジタルオーバーラッピングという現象とその中で勝つためのOMO(Online Merges Offline)という考え方をビットオートや平安グループの事例を交えてご紹介しました。これは、オンラインとオフラインを分けるのではなく、一体として捉え、しかもオンラインにおける戦い方や競争原理から考えることを指します。第2回ではデジタルオーバーラッピングやOMOがもたらしている産業構造の変化と、日本企業の向き合い方について論じます。

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顧客体験への集中を可能にする、社会全体として“Experienceにフォーカスできる”エコシステムとは

 当コラムの第1回で「我々のKSFはデータドリブンでやっていることではない。鍵はExperienceへの注力である」とビットオートの経営戦略部長が毅然と言い放った逸話を紹介しました。実際に彼らはカーライフを網羅する形で顧客タッチポイントを作りながら顧客の課題解決をしています。もともとはカーメディアだったのが今では免許取得をサポートするアプリまで提供しているのです。ここで出てくる問いは、費用構造はどうなっているのかです。ジャーニー全体を押さえるのは理想論としてアリだとしても費用対効果の低い接点もある中で、どのように収益化をしているのかという点です。

 例えばシェアサイクルのMobikeも、30分乗車してたった1元(約16円)という安値で、自転車の製造コストは1台あたり約1万2千円です。しかも常時回収車が回って自転車を再配置するという人件費もそれなりにかかっています。普通にそろばん勘定をすると到底利益が出そうにありません。

 ポイントは単一事業で収益化する必要がないということにあります。例えばMobikeをはじめとするシェアサイクルサービスは個人と紐づいた移動データを膨大に保有しています。彼らはアリペイを提供するアリババ社やWeChatペイを提供するテンセント社からすると自社決済プラットフォームの利便性を高め顧客と自社の吸着度を高めるための垂涎のサービスです。アリババもテンセントもMobikeやOfoなどのシェアサイクルサービスに出資することで自社プラットフォームに載せ、彼らが持つ個人と紐づいた移動データを活用することで出資分を十分に回収することができるのです。

 故にサービスを提供するスタートアップ企業も今は収益化の計画ではなく、如何にユーザをたくさん集められるかの計画を立てるように投資家に指導されているそうです。そして多くのユーザを獲得するための鍵が「体験=Experience」なのです。社会全体としてExperienceにフォーカスできるエコシステムが出来上がっているといえましょう。

 ビットオートもテンセントが出資をしています。顧客との接点づくりはそれ単体としてみた場合に赤字だったとしても、ジャーニー全体で顧客とのエンゲージメントを深めることができれば、従来の広告宣伝費を再配分しただけと捉えれば問題ないわけです。第1回で言及したマーケティングモデルの転換です。

 こういった構造は中国固有の現象と考える見方もありますが、プラットフォーマ―の台頭や、モノからコトという時代変化を見ると、遠くない将来日本にも起きることだろうと筆者は予想しています。

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この記事の著者

宮坂 祐(ミヤサカ ユウ)

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