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クリエイティブに本を読むための読書術パターン・ランゲージ(後)

「本をクリエイティブに読む -これからの時代で求められる創造的読書」」イベントレポート(後)

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本からスタイルを継承する、勇気をもらう

井庭:それでは、ここからは「創造的読書」のあり方について、いくつかあげていきます。まず《発想の素材》というのは、今、自分がやっているプロジェクトや企画のアイデアや刺激を得るために本を読むということです。全然違う分野でもいいし、得た発想が著者が書いたことや背後にある意図と違ってぜんぜん構わない。発想のための素材ですから。

 《スタイルの継承》は、文章を書く時など、何かを表現しようとしているときにするものです。例えば僕の例でいうと、論文や学術書を読んでいる時期に、ゼミのシラバスとか、イベントの告知文などを書くとどうしても硬い文章になってしまいます。やわらい感じの文章を書く時は、自分が良いと思うやわらかい文章の本を読んで、その本の文章やスタイルに触れてから書くようにします。そうすると、雰囲気がやわらかくなります。これが《スタイルの継承》です。文体や雰囲気を取り入れさせてもらうんですね。実は今回、出した本『対話のことば』(丸善出版)は、井庭研メンバーとの共著なのですが、複数のメンバーで文体を揃えるために、その前に出している『旅のことば』(丸善出版)の文章を読み直して《スタイルの継承》をしてから文章を書くようにしてもらいました。

 《勇気の源泉》は、作家、芸術家、探検家など、著者や主人公が何かに挑戦している姿から、勇気やパワーをもらうという本の読み方です。僕も、いろんな問題や困難に立ち向かう人の本を読んで鼓舞されることが多いです。映画で言えば、「ロッキー」を見て自分もトレーニングに励むというような感じですね。

 《考えの型》は、ある分野について体系的に書いてある本を読んで、別の分野のことを考えるのに活用しちゃうというものです。たとえば、社会学の社会システム理論の本を読み込んで、そこから創造性について考えて、創造システム理論をつくる、みたいなことをしています。先日出会った小学校の先生は、『ティール組織』などの組織論を読んで、学級づくりに活かしている、なんて話をしていました。まさに、異分野のフレームワークや理論を《考えの型》として、自分の分野に活かすということですよね。

 最後の《未来のかけら》は、未来はこうなるんじゃないかという発想のかけらを、本の中から探すという読み方です。未来の世界はいきなりゼロからつくられるわけではないので、SFなどに限らず、今の世界の情報やアイデアのなかに、未来の萌芽が見つかるものです。
みなさん、こういう創造的な本の読み方というのは、実践していますか?

中川:僕は《発想の素材》が多くて、いつも伝えたいメッセージや企画書を作る時の言葉を探している感じですね。

井庭:僕も、言いたいことをバシっと言うことができる言葉を探すために、本を手にすることが多いですね。「ことば探し」のための読書です。原稿の締切が迫っているのに、本を読んでいるのを見ると、まわりの人は「そんな時間あるんですか?」と言うのですが、書くために読んでいるのです。

あかし:私は最近《勇気の源泉》がありました。すごく落ち込む、挫折のような出来事があったんですが、その時に本棚から「挫折から這い上がった経験を書いていそうな人」の作品を探して読みました。吉行淳之介さんとか中島らもさんの挫折体験を読んで「私より悔しい思いをしている人なんて山ほどいるんだ、だから頑張ろう」って(笑)。

井庭:面白い。決して前向きな本だけじゃない。

中川:僕は今、教育のプロジェクトで学校の先生と話すことがあるんですが、マネジメントや経営の理論をクラスの運営や教育に活かそうという人もいるんです。教育と経営ってけっこう、共通する部分が多いんです。

井庭:ある分野で徹底的に考えられた体系性っていうのは、全体性がありますから、他の分野に適用させたり活かすことで、新たな捉え方でリフレーミングして、イノベーションを起こすきっかけになります。

 僕は、かつて新しい社会システムの構想のための方法論を考えていく中で、情報システムの開発の方法論、例えば、アジャイル開発の方法論などが使えないかと考えたことがあります。社会シウテムでも情報システム(ソフトウェア)でも、複雑で大規模なものを多人数でつくるので、情報システムの開発の分野で培われた方法論は、社会システムの開発にも応用できるんじゃないか。情報システムの開発方法論は、その結果が出るのが早いのでどんどん洗練されていきます。社会システムは何十年のスパンですから、方法論が進化しにくい。だからこそ、他のシステムの開発方法論を取り入れる価値があると考えました。

 僕が専門とする「パターン・ランゲージ」も、もともとは建築・まちづくりの方法論でした。それを、僕たちは、他の分野の創造実践活動の支援に活用しています。考案者のクリストファー・アレグザンダーは、まさか、認知症の方のよりよい生き方のパターン・ランゲージがつくられることになるとは、当時まったく思ってなかったでしょう。それでも、僕たちは、自分たちの新しい分野のパターン・ランゲージをつくりながら、建築分野を想定して書かれたアレグザンダーの本を何度も何度も読み直します。

 このように、著者がまったく想定していなかったような読み方で、読者の創造的な活動に刺激をもらうような読み方それが、創造的な読書なのです。これからの創造的な時代にとても重視される読み方だと思うので、「創造的読書」(クリエイティブ・リーディング)と新しい名前をつけて、呼ぶことにしました。

 『Life with Reading – 読書の秘訣』カードは、以上のように、オーソドックスな読書のコツから、ワクワクするような読書の楽しみ方、そして、これからの創造的読書の仕方まで、本の読み方をよりよいものにするヒント(パターン)がたくさんあります。みなさんも、ぜひ『Life with Reading – 読書の秘訣』カードを使って、自分なりの読書を楽しんでみてください。

「Life with Reading-読書の秘訣カード」有隣堂6店舗と、有隣堂のオンラインショップにて販売されている

ワークショップの様子

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