実体験とメンターの存在が、安易な打ち手への“依存”を回避させてくれた
宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):企業が手っ取り早く効果の出る施策を次々と導入したり、個人が自己啓発やハウツー本にたくさん手を出したりすることを“依存状態”だというのは、けっしてバカにして言っているわけではないんです。それだけみんな孤立した中で苦しんでいるということだし、今の企業社会ではそうなっていくのは仕方ないことでしょう。迫さんも追い詰められて、ある種の依存症的な解決に陥りかねない時期もあったんじゃないですか?
迫俊亮氏(ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長、以下敬称略):ありましたね。
宇田川:そこから回復していく上で、どういうことが助けになりましたか?
迫:大きくふたつあって、ひとつは実体験を通じて気づくことができました。僕はマザーハウス時代、右脳を鍛えようとデザインスクールに通ったり、毎週『The Economist』を読んで英語で議論をするという勉強会に参加したりしていました。経営がうまくいかないからと、自己啓発や自己投資に依存していたんです。それらはマイナスにはなりませんが、実質的な効果はあまり感じられませんでした。
その頃に台湾に行ったことが、僕にとって転機になりました。向こうで事業が立ち上がったばかりのときに東日本大震災が起き、日本のビジネスの落ち込みを埋めるためにも台湾事業を伸ばさなければいけない状況になったんです。自己啓発みたいなことは一切忘れて仕事に取り組んで、半年くらいすると自分がかなり成長しているということに気づきました。仕事に対してコミットメントをもって取り組んで、失敗や成功から学んでいくことが必要なんだな、ということが分かったんです。
もうひとつは、良いメンターがいたことが大きかったですね。台湾での経験から学んだとはいえ、うまく行かない時には依存症的な打ち手がどうしても魅力的に見えるんです。スーパーコンサルタントみたいな人に、どこかの会社でこれがうまく行ったなんていう話を聞くと、うちでもうまく行くんじゃないかと思ってしまったり。そんなとき、「お前、安易な方向にいってるんじゃない? 本質的な課題に本当にアプローチできるの?」などと、ちゃんと諭してくれる人たちがいたというのはありがたかったです。