デザインの守備範囲の広がりとサービスデザイン
では、デザインの産業との関わりは、どう変わってきたのだろうか。デザインが産業に大きく関わってくるのは、第一次産業革命以降である。第一次産業革命で軽工業が機械化された結果、粗悪な機械製品が大量に生まれるようになった。その粗悪品との差別化を図ることでビジネスに弾みをつけようと、第二次産業革命の時代にかけてプロダクトデザイン、グラフィックデザインといった、 一般にも広く認知されているデザインの分野が生まれてきた。
その当時、デザインの対象範囲は、コモディティ(商品)とハードウェアだった。一人のスターデザイナー・クリエイティブディレクターがポスター、ロゴ、椅子、自動車などの「記号」や「モノ」をデザインし、商品や広告ができあがればデザインの仕事は完了していた。
20世紀には第三次産業革命が起こった。インターネットが出現し、ICTなどが急速に普及してくると、ハードウェアだけではなくて、ハードウェアのなかにあるソフトウェアと人間がどのように相互作用をしていくのかを考える、インタラクションデザインという分野が発達してくる。そして現在の第四次産業革命では、デジタル技術の進展、IoTの発展による新たな経済発展や社会構造の変革が起こり、デザインはデータやAIも駆使して、サービスやシステム自体を設計する「サービスデザイン」「システムデザイン」に変わっていく。
この時代になると、デザインの対象は「記号」や「モノ」にとどまらず、インターフェース、モビリティ、エコシステムなどのような「経験」に変わる。デザインは異なる分野からなるチームで探索・発見・プロトタイピングをしながら行うため、プロのデザイナーはファシリテーター的に振る舞うことになる。デザインの完了条件も変わる。ユーザ を含むステークホルダーからのフィードバックをもとに継続的に改善・アップデートする必要が出てくるため、完了という発想自体がなくなる。
こういった変化によってデザインの哲学も、第二次産業革命以前と第三次産業革命以降では異なってきている。前者ではProduct-centered、つまり製品、技術、機能中心でデザインは考えられていたが、後者ではHuman-centered、つまり人間中心で考えるようになっている。